商人はよく「損して、得とれ」という。この言葉の意味は、最初は少し損したとしても、取引相手と長期にわたる協力関係を築き、そのもとで得る利益の方が、短期的な利益よりも大きいというものである。今回は、長期にわたる取引関係が、なぜ取引当事者間の協力を形成するか、について検討する。

囚人のディレンマ

ゲームの理論で解く<br />長期的な関係が協力をもたらす理由とは<br />京都大学大学院経営管理研究部教授 成生達彦

 罪を犯して逮捕された2人の囚人が、別々に尋問を受ける状況を想定する。各々の囚人の選択肢は、罪を「自白する」か、「黙秘する」かの2通りであり、彼らの選択の結果として、各人の刑期は表1のように与えられるとする。

 すなわち、2人がともに自白した場合には、罪が明らかとなり、ともに5年の刑期となる。この状況での両者の利得を-5とする。両者がともに黙秘する場合には、拘置期限が切れるまでの1年間拘束される。この状況での彼らの利得はともに-1である。

 一方が自白し、他方が黙秘した場合には、自白した方は釈放され(利得は0)、黙秘した方に10年の刑期が科される(利得は-10)。このような司法取引は、自白を促して訴追費用を節約するために、米国などでしばしば行われている。

 ともに黙秘すれば1年間拘束されるだけであるから、2人にとってともに自白する(このときには、ともに5年の刑期を科される)よりは望ましい。この状況で、各人はどのような選択をするか?

 いま、相手が自白するとしよう。このとき、自分も自白すれば、自分の刑期は5年となる。逆に黙秘すれば、自分の刑期は10年となる。10年よりは5年の刑期の方が短いから、相手が自白すると予想される場合には、自らも自白することを選択する。