アラブ 2018年3月2日

[教えて! 尚子先生]
エルサレム問題とは何ですか
~2017年のトランプ大統領の首都認定宣言から~【中東・イスラム初級講座・第45回】

米大統領の首都認定宣言の背後にある「エルサレム大使館法」

 では、なぜアメリカの大統領が他国の首都の問題について、認定宣言を発表するような事態になったのでしょうか?
 
 今回の認定宣言の原因をさかのぼると、1995年の「エルサレム大使館法」にたどりつきます。これは95年10月に成立した法律です。その主な内容は、1999年5月末までにテルアビブからエルサレムに、アメリカ大使館を移転させるというものでした。
 
 ですが、その移転の前提条件には「エルサレムは分断されることなく、イスラエルの首都である」という一文が含まれているのです。つまり、この法律がただの「移転」のためだけの法律ではないため、現在、問題となっているのです。
 
 この法律の背景には、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)によって1993年に結ばれた、オスロ合意と呼ばれる協定がありました。オスロ合意の重要な点は、両者が相互の存在を承認すること、そしてイスラエルは占領した地域から撤退し、その土地にパレスチナ自治政府による自治を認めるということでした。
 
 この合意はパレスチナ問題の当事者同士が、初めて話し合いのテーブルにつき、お互いを承認し合うという点で画期的でした。そして、オスロ合意はこの相互承認に基づいて、和平と土地を交換、つまり和平が進めば段階的に占領地がパレスチナ自治政府にわたされるという仕組みになっていました。
 
 その結果、最終的にはイスラエルとパレスチナという2国ができあがると考えられていました。そのため、オスロ合意は和平の進展を望む立場の人々からは歓迎され、好意的に受け取られました。
 
 ところが、イスラエル国内の極右の人々を筆頭に、和平を必ずしも歓迎していない人々もいました。それは、たとえば、イスラエルがパレスチナ人に土地を返す必要はないと考えていた人々です。彼らは和平と占領地の返還がリンクしている、オスロ合意に反対していました。
 
 当時、かなりの数の和平反対者が、イスラエルにもアメリカにも存在していました。1995年10月25日には、当時のイスラエルの首相であるラビンがアメリカ訪問を予定しており、また翌96年がエルサレム建都3000年の節目であることから、和平反対者に対する何らかの措置、一種のガス抜きが必要となっていたのです。
 
 そのため、「エルサレム大使館法」は、どうしてもラビン訪問の前に整えられなければならなかったのです。こうしてラビン訪問直前の10月23日に成立したのが、「エルサレム大使館法」でした。
 
 ラビンはこの法案の成立を歓迎し、ワシントンで以下のように演説しています。

 「エルサレムはユダヤ人にとって心のよりどころであり、プライドの源です。我々は右派と左派では意見が異なっていますが(中略)、我々すべてのものが、エルサレムは不可分であり、国家としてのイスラエルの首都として永続的であることについては一致しています。」
 
 ところが、この演説を行なったわずか10日後に、ラビンは和平に反対する極右思想のイスラエル人の青年によって暗殺されたのでした。
 
 和平推進派の首相が暗殺され、和平反対派のネタニエフ首相が誕生したことにより、オスロ合意は遅延に遅延を重ねるようになっていきました。和平への期待は失望へと変わり、オスロ合意はとん挫してしまいます。
 
 このように「エルサレム大使館法」は、和平への期待が最も高まっていた時期に成立したものでした。その後、和平の進展が危ぶまれてからは、中東情勢のさらなる悪化を防ぐという理由から、クリントン、ブッシュ、オバマと歴代の大統領たちは、この法を実施しようとはしませんでした。

 「エルサレム大使館法」には、大統領が拒否すれば、実施には至らないという抜け道があったのです。結局、歴代の大統領は6カ月に一度、拒否権を行使し続け、20年以上が経過していたのでした。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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