アラブ 2018年3月2日

[教えて! 尚子先生]
エルサレム問題とは何ですか
~2017年のトランプ大統領の首都認定宣言から~【中東・イスラム初級講座・第45回】

エルサレムとキリスト教福音派、トランプ政権との関係は?

 では、なぜトランプがパンドラの箱のように扱われていた、この問題にあえて関与したのでしょうか? 彼はオバマ大統領のように(議会の反対によって、ほぼ何もできなかったと評されているとはいえ)、積極的に中東和平を進展させるつもりはあるのでしょうか?
 
 トランプは「これまでの大統領たちは、これを(首都認定をさす)重要な公約としてきたにもかかわらず、実行できなかった。だが、今日、私は実行しているのだ。」と述べています。彼は中東和平促進という目的よりも、あきらかに国内の支援者に向けて発言していると考えられます。「誰もやったことがないことをやったんだぞ」と。

 ですが、エルサレムの首都認定が、なぜアメリカ国内で大きな意味を持つのでしょうか?

 もちろん、アメリカの選挙ではユダヤ票が勝敗を左右する重要な要素となってきたことはいうまでもありません。ですが、トランプが勝利した前回の選挙戦で、より注目されていたのは「キリスト教福音派」の動向でした。この福音派の票がトランプ陣営に流れたことが、彼の勝利に結びついたといわれています。そして、彼の副大統領であるマイク・ペンスも福音派です。

 アメリカ政治や社会をよく理解していれば、福音派とエルサレムがどう結びつくのか、すぐにピンと来るのかもしれません。けれども、私自身はさっぱりわかりませんでしたので調べてみました。

 福音派とは聖書を忠実に尊守していこうとするキリスト教徒の宗派だそうです。アメリカにはダーウィンの進化論を、聖書の記述に反するために学校で教えるべきではないと考える人々が存在しているなどとよく言われていますが、まさにそのような立場の人々が福音派なのです。

 なぜ、彼らがエルサレム問題に関与しているのかというと、彼らは聖書の「神がイスラエルの地をアブラハムの子孫(ユダヤ人を指す)に与えた」という記述から、パレスチナ(エルサレムを含む)の地はユダヤ人が支配すべきであると考えているのだそうです。

 そして、復活したキリストがエルサレムに現れるためには、神が与えた地(エルサレム)をユダヤ人が支配していなければならないと彼らは主張しています。そのために、福音派の人々はエルサレムに自らの「大使館」と呼ぶ事務所を建設しイスラエルと友好関係を築き、積極的にアメリカ議会にも働きかけを行なっています。
 
 こうした福音派の人々が、アメリカ社会の約3割を占めるといわれています。だからこそ、オスロ合意が進展した際には、「エルサレム大使館法」というガス抜きが必要となったのです。そして、今回のエルサレム首都宣言は、支持率を急速に下げているトランプ政権の中間選挙に向けての「選挙対策」だと考えることができるのです。

 トランプはエルサレムがイスラエルの首都として認められるべき理由として、すでにエルサレムがイスラエルの首都であるという「現実」を直視すべきだと発言しています。この姿勢こそが、歴代の大統領たちとまさに異なっている点かもしれません。
 
 先に述べたように、この発言には東エルサレムがイスラエルに「占領」された土地に過ぎないという認識が欠落しています。つまり、彼の言うところの「現実」は、1967年の紛争によってイスラエルの得た、東エルサレムやヨルダン川西岸などの全「占領地」からの撤退を求めた、国連安保理決議242号を無視しているのです。
 
 また、オバマ政権末期の2016年12月に採択された、パレスチナ占領地でのイスラエルの入植活動を批判した安保理決議2334号(アメリカが棄権したために採択が可能となった)をも覆しています。
 
「現実」を認めろという発言は、国連の決議や国際裁判所の勧告(イスラエルが東エルサレムを含むパレスチナに建設した分離壁は国際法上違法であると勧告)に拘束力がないとしても、各国がこれまでに行なってきた和平への努力を、いとも簡単に水の泡にしてしまいかねません。そのため、今回の首都認定宣言に対する、日本を含めた西欧諸国からの反応は批判的です。

 首都認定の発表直後の2017年12月18日には、アメリカの拒否権発動によって否決されたものの、国連安保理で首都認定の撤回を求める決議案が提出されました。さらに、同月21日には国連総会でも、撤回を求める決議案が賛成128、反対9(アメリカ、イスラエル、グアテマラ、ホンジュラス、トーゴ、ミクロネシア、マーシャル諸島、パラオ、ナウル)、棄権35、欠席21にて採択されました。
 
 また、イギリス、カナダなどはアメリカに追従して大使館を移転するつもりはないことをすでに表明しています。現在(2018年2月末)のところ、アメリカに追従して大使館の移転を発表しているのはグアテマラのみです(イスラエル外相は10カ国以上に打診中と発表:またチェコはアメリカの発表以前の5月に移転を表明)。

信号待ちをする兵士たち。テルアビブにて(Photo:©Alt Invest Com)

作家・橘玲の切れ味鋭い見解が毎週届く!
有料メルマガの
無料お試し購読受付中!
お試しはこちら

幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,500円(+税) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額800円+税
いますぐ試す(20日間無料)

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。