文部科学省の放射線審議会が、「野菜類、穀類、肉・卵・魚などの一般食品を暫定規制値の1キロ当たり500ベクレルから100ベクレルに引き下げる」などとした厚生労働省による食品中の放射性物質の新基準値案について、「厳しすぎる」との見解を示した。これらは、農漁業を中心とする被災地の復興を念頭に置いての意見であることは想像に難くない。しかし、原発事故以降、「放射能汚染」の恐怖に怯える消費者にとっては、「厳しすぎるくらいでなければ困る」という意見が出てくるのも当然だろう。まもなく震災から1年。この新基準は4月から施行される予定だが、私たちはこれで安心・安全な食生活を送れるようになるのだろうか。専門家は、新基準適用でむしろ消費者のなかにある“心の規制”が強まるきっかけになり、食生活や健康に影響を及ぼす恐れがあるのではないかと指摘する。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)

“東北復興”と“食卓の安全性”の間で揺れる
年間被曝線量「1ミリシーベルト以下」という数字

 遅々としながらも、着実に進められている震災からの復興計画。しかし一方で、原発事故の余波は我々の生活の随所に影響を与えており、日増しに深刻化している問題も少なくはない。とりわけ消費者にとって気になるのは、放射性物質による汚染が不安視される食の問題だろう。

 先ごろ、厚生労働省がまとめた食品中の放射性セシウムの新基準について、文部科学省・放射線審議会が「必要以上に厳しい」と声明したことが話題を集めた。

 厚労省による新基準案では、食品による年間の被曝(ひばく)線量が暫定規制値の5ミリシーベルトから1ミリシーベルトに引き下げられて厳格化。野菜類、穀類、肉・卵・魚などの一般食品は1キロ当たり500ベクレルから100ベクレル、飲料水は200ベクレルから10ベクレル、牛乳は200ベクレルから50ベクレル。さらに乳児用食品の項目が新設され、50ベクレルと定められた。

 この数字が、東北の農業復興の障壁になる、というのが放射線審議会の懸念であることは想像に難くない。

 ならば、基準値を緩和して食材の流通を促せばいいかと言えば、そう簡単なものでもない。厚労省が安全面で問題なしと判断した数値の根拠が、消費者の目からは不透明に映るのもまた事実。つまるところこの問題は、安全性の確保と被災地の産業への配慮という、ふたつの重大事の間で板挟みになっているわけだ。