

冒頭でも触れたように経理部には、実に多種多様のデータが集まります。それらは、いわば経営に関わる生データなので、たとえ経験が浅い経理部員でも、費用データを集計して時系列で分析し、各部署に理解されやすい資料を提供するなど、取り組み方を変えるだけで仕事の付加価値は上がります。しかもデータの見方を工夫すれば、コミュニケーションについても、経理ならではの“ネタ”が見つかるのです。
ここで、各部署から提出された出張精算書やイベント実績表、費用明細書などのチェックを例に考えてみましょう。これらはスタンダードな経理仕事の一環ですが、チェック作業にとどまらず、データの集計→分析→プレゼンというように付加価値の高い仕事にするように意識することができます。
また、資料に記された行き先・会場・行程・費用明細等々を見つめれば、各部署の人がどのような準備を整えて、出張先やイベント会場に赴き、どんな戦略を練りながら見込み客と商談して収穫を得たのか、あるいは目標に達しなかったのか等々、現場の実情・ストーリーを垣間見ることができるのです。
たとえ、そこまでの洞察力がなくても「あの部署の○○さんは、こんなところまで営業に行っている」「イベントにはこれだけ多くの来場者があったのか」くらいの感想は持つことでしょう。
経理部員は日々、こうした視点で資料を扱っていれば、他部署の書類提出者に対して費用の使い方の問い合わせや予算科目の間違いなどを指摘する場面が生じても、スムーズにコミュニケーションが取れると思います。その際に、いきなり核心に触れるのではなく、経理部員が具体的に感じたことを“枕言葉風”に伝えるようにして本題に入れば、相手は協力的な姿勢で経理部員の言葉に耳を傾けてくれるのではないでしょうか。
例1)電話で問い合わせする指摘する場面
「先日は、遠いところまでのご出張お疲れ様でした。早々に提出していただいて、助かります。今、少しお話ししてよろしいですか?予算科目のことで、お話ししたいのですが…」
例2)メールで問い合わせする場面
「お疲れ様です。イベント実績表のご提出ありがとうございました。○名様ご来場とのことで、とてもご盛況だったご様子と察します。私事ですが、イベントで紹介された○○について、興味を持っております。さて、ご帰着早々に申し訳ありませんが、本イベントの費用額についてのお問い合わせをしたいので、○月○日○時位にお時間いただけませんでしょうか?」
多くの人は他者から感謝してもらう、興味を持ってもらうことに対して喜びを感じます。こうした方法は、単にその場を取り繕うためのお世辞ではなく、「提出が早かったので経理の仕事も早々に着手できた」という感謝や「○○について、興味がある」と自身が感じたことを自然体で伝えています。もし次に経理として厳しい指摘をする場面があったとしても、相手も経理部の使命を理解しやすくなります。その結果、経理部員がより深い情報発信をしたり、相談をしたりと、経理の役目が更に発揮できる場が広がることでしょう。