国内独立系のAIJ投資顧問会社が企業年金から運用受託していた約2000億円の資金の大半が消失していることが、23日、証券取引等監視委員会の検査で判明した。AIJはオルタナティブを駆使したヘッジファンド運用で高い運用収益を上げているとの虚偽の情報を顧客に伝えて資金を集めていた疑いがあるとして、金融庁は24日、AIJに1カ月の業務停止命令と業務改善命令を発出して、実態の解明を急いでいる。AIJの廃業は不可避だと思われる。

租税回避地の英領ケイマン諸島を悪用

 オリンパスの「とばし」問題発覚時もわが目を疑ったが、今回の2000億円消失問題についても、とりわけ高いコンプライアンスが要求される今日の運用市場で、このような事件が起こったことについて、茫然自失する思いを禁じ得ない。

 AIJの第22期事業報告書によると、AIJには2010年12月31日現在で118件の年金ファンドが1821億円を委託していた。これが2011年9月末時点では124件、1984億円にまで膨らんだ模様だ。これらのほとんどすべてが投資一任契約だと見られている。

 新聞報道などによると、AIJは租税回避地である英国領ケイマン諸島に登記した3つの私募投信に年金資金を投資することを指示し、実質的なグループ会社であるアイティーエム証券を通じてケイマンに年金資金を流していた。ケイマンに流れた資金は私募投信を管理する英国領バミューダの銀行が、AIJの実質的な指示を受けて、オルタナティブなどで運用していたとされているが、実はそのほとんどが香港に流れていた模様であり、本当に運用が行われていたかどうか(他の用途に流用されていたのではないか)を訝る向きも多い。

 ともあれ、年金資金の9割が消失したと見られている現状では、AIJに運用を委託していた年金サイドに大幅な含み損が発生し、母体企業などの追加負担(穴埋め)が迫られるのは必至の情勢である。穴埋めが上手くできなければ、その分年金給付が切り下げられることになる。最悪の事態は解散となるが、解散するためにも母体企業などに一括拠出が求められるケースもあり、袋小路に陥りかねない。AIJの運用の実態は、今後、司直の手で明らかにされ、AIJ関係者の責任が厳しく追及されるものと思われるが、それでも消失した年金資金が戻ってくることはほぼない。

 AIJの顧客の大半は、トラック業、建設業、電気工事業、管工業など、地域の中小企業が作る総合型の厚生年金基金と見られており、追加負担は容易なことではないと推察される。中には年金資金の半分近くを失う基金も複数あると報道されている。

 そうであれば、直接の被害者はこれら中小企業の従業員である年金受給者だということになる。企業年金は市民の老後の生活を保証する半ば公的な性格を持つ資金である。なぜ、このような杜撰な事件が起こったのであろうか。また、このような事件を二度と起こさせないためには何をすればいいのだろうか。以下、考察を加えてみたい。