両立が難しい味と糖質量
何百回も試作を繰り返す

 村田は試しに鳥越製粉のパンを食べてみたが、通常の小麦粉のパンのような甘みや、もっちりした食感に乏しい。無理もない。これらは糖尿病患者のために開発された特別な商品だった。

 何とか鳥越製粉の技術を生かして、より小麦粉のパンに近い味を再現できないか──。村田は上司を説得し、大手製パン会社、そして鳥越製粉と共同で開発を一気に進めた。

 鳥越製粉の研究施設に村田も自ら通う日々。原料も小麦だけでなく、やや糖質が多い大麦やコメの外皮もブレンドしてみた。ブレンドの割合だけでなく、生地をこねる時間、こねてから休ませる時間も微妙に調整した。

 製パン会社時代に研修でパン作りの専門学校に通った村田も、自ら生地をこねた。試食して、小麦粉のパンに近いおいしさに仕上がっても、糖質を量ってみるとそれほど減っておらず、また作り直す。試作は何百回にも及んだ。またブランなどの外皮には、特有の穀物臭がある。これを和らげるため、蜂蜜やカカオ、サツマイモを使い、糖質が増え過ぎない程度に味付けして菓子パン風に仕上げた。

 試作を重ね、小麦粉のパンより糖質を7割ほど抑えたものが12年の春に完成。当時社長だった新浪剛史(現サントリーホールディングス社長)を含む役員が本社で試食した。

 役員からは「おいしい」という言葉は出ない。「カロリーを抑えているから、まあこんな味だよね」といった反応だった。だが新浪は、後にローソンのキャッチフレーズが「マチの健康ステーション」となるように、当時から健康志向の商品を拡大したいと考えており「こういうパンをやってみるのもいいんじゃないかな」とゴーサインを出した。

 ブランパンは、同年6月から全国の店頭に並んだ。糖質制限自体が一般的でなかった当時、カロリーの低さと食物繊維の豊富さを訴求した。

 だが、販売は振るわなかった。村田は「暗黒の時代」と振り返るが、珍しい現象も起きていた。会社の代表メールアドレスに、発売直後から「こういうパンを出してくれてありがとう」といった客からの感謝のメールが届いたのだ。