産経新聞大誤報の真相「つぶすからな」取材もせず沖縄タイムス記者を恫喝講演で中国人や韓国人について「嫌やなー、怖いなー」と言ったことをいったん否定し、筆者が録音した音声を確認する百田尚樹氏。主催者らが囲み、取材の様子をネット中継した=2017年10月27日、沖縄県名護市

 2017年12月に沖縄県内で起きた交通事故で、「米兵が日本人を救出した」とする報道をめぐって、産経新聞は「事実関係の確認が不十分」だったとして記事を削除。沖縄タイムスと琉球新報に謝罪した(18年2月8日付紙面に「おわびと削除」を掲載)。

 沖縄タイムス記者・阿部岳は、自著『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日新聞出版)のなかでデマを垂れ流すメディアのあり方を問うている。いまだ沖縄2紙に向けられる“根拠なき批判”。その当事者でもある阿部が、今回の騒動をリポートする。

 真っすぐな視線を向けられ、答えに窮した。取材相手の女性(19)がふいに聞いてきた。「米軍が良いことをした時には何で書かないんですか」。良いことをしたのかどうか、そこが分からないからです。出かかった言葉はしかし、のみ込むしかなかった。

 昨年12月、沖縄県の高速道路で起きた多重事故。米兵が自らを犠牲にして日本人を救った、その英雄的行為を「反米」の沖縄タイムスと琉球新報の2紙は黙殺した――というデマがものすごい勢いで広がっていた。

 産経新聞ウェブ版の記事が起爆剤になった。「米軍の善行には知らぬ存ぜぬ」「メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」。激しい言葉がネットの波に乗った。

 沖縄タイムスの同僚は早い段階で、記事を書いた産経の高木桂一・那覇支局長(当時)が県警に取材していなかった事実を把握していた。事故は警察。火事は消防。新聞記者なら、1年生でもまずは聞く。電話をたった一本かけるだけで、米兵による日本人救助は確認できない、という事実が分かった。新聞社として、およそ考えられない欠陥取材。沖縄2紙を批判するために、あえて事実関係を無視したのではないか、とさえ私たちは疑った。