このようなケースは初めてだったため、天海は慌てて弁護士に連絡を取った。弁護士のアドバイスでは、パワハラの事実が全くない中で、あっせんに応じる必要はないという。もし、本人が訴訟を起こす動きがあっても、会社側に落ち度はない以上、堂々と戦えばいいとのことだった。

 天海は不安に思いながらも、弁護士のアドバイス通り、あっせんには参加しない旨を回答し、労働局に返送した。

 その後、本人からの連絡もなく、半年以上が経った。風のうわさでは実家に戻り、教師を目指して採用試験を受けるらしい。

 吉岡が弁護士に相談に行っても、パワハラと認められるだけの確固たる証拠がないと判断したため、弁護士も受けなかったのだろう。大事にならず、天海はホッと胸をなで下ろした。

新入社員の指導には
細心の注意を払うこと

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 いつの時代も、年配者は「今どきの若者は……」と自分たちの若い頃とのギャップを嘆くものだが、ここ最近の新入社員の打たれ弱さ、メンタルの弱さについては、頭を悩ませている人事担当者も少なくないようだ。

「ちょっと注意をするだけで『パワハラ』と言われてしまうので、最初から何も言わない」と言う管理職もいる。しかしこれでは、管理職としての職務を放棄していることになる。

 一方で、若者はとても傷つきやすいという事実を踏まえ、叱り方にも細心の注意を払わなくてはならない。部下指導をする人たちは感情的になって大声を出すのではなく、「なぜダメなのか?」「どういう影響が出るのか?」といったことについて、本人が納得できるように言い聞かせる必要がある。

 もし叱ったりすれば、その後のフォローもきちんと行わないと、今回のように特にメンタルが弱い人なら「あの人の元では顔も見たくない」「この会社ではやってられない」といったことにもなりかねない。だからこそ、皆の前で叱るのは極力避け、本人のプライドを傷つけないように別室で注意するといった配慮をしなくてはならない。

 新入社員が大勢入って来るこの時期、管理職は適切に指導しつつ、広い心で成長を見守ってほしいと思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。