「それって、性病ですよね。でも私、もう2年近く、セックスをしたことはないんですけど」

 本当だった。夫の康哉さん(仮名・43歳)との仲は決して悪くなかったが、咲子さんが38歳で第2子を出産して以来、「なんとなく、そんな気にならない」状態が続き、今に至っていた。咲子さん的には、「自分はもう、生涯セックスから卒業してもいい気分」だったのだ。

 それなのに、性感染症になるとは。

 仮に、康哉さんが浮気をして、どこかでうつされてきたとしても、性交渉自体ないのだから、うつされるわけがない。

「心当たりがないんですか。では、ほかの感染経路かもしれません。感染者が利用したタオルや下着への接触、お風呂のイスなどを介して感染する場合もあるようですよ。うちの患者さんでもよく、まったく原因が分からないという方がおられます。本当に、性交渉だけでうつるものではないみたいですね」

 医師はなだめるように言った。

性交未経験の女性
乳幼児にも感染する

 膣トリコモナス症は、「膣トリコモナス」という肉眼では見えない小さな原虫の寄生によって起こる。

 その姿はゾウリムシに似ており、「鞭毛(べんもう)」とよばれるムチのような長い尻尾を動かしながら、自分で移動することが可能だ。そのため体内に侵入した膣トリコモナスは、腟のほか尿道、外陰部にも寄生して炎症を起こす。部位によって「トリコモナス腟炎(腟トリコモナス症)」、「トリコモナス尿道炎」、「トリコモナス性前立腺炎」など異なる診断名がつくが、これらの原因は全て「腟トリコモナス」である。