「他の性感染症と同様に、腟トリコモナス症もパートナーと同時に治療をするのが基本ですからね。そうしないと、女性だけ治っても、男性からうつされたり、逆もあり得る、といった『ピンポン感染』が起きてしまいます」

 咲子さんと康哉さんは夫婦であり、人生のパートナーであることは確かだが、性交渉のパートナーではない。そんな状態でも、同時治療は必要なのだろうか。夫に話せば、不道徳なことは何一つしていないのに不倫を疑われるのは必至。そんなのはいやだ。だけど、誰からどうやって感染したのかさえ分かっていない状態であるということは、周囲の親しい人全員が同時治療しないと危ないのではないか。ピンポン感染の団体戦になってしまったらどうしよう。

 迷いまくる咲子さん。

 参考にしようとネットで、医者が相談に乗ってくれるサイトを検索してみると、同じように「心当たりがないのに膣トリコモナス症になりました」という相談がいくつも出てきた。

 救われる情報が得られるかと期待してみたが、医師からの返答は「主に性交渉でうつります」「性交渉以外で感染するのはよっぽど不衛生な環境で生活している場合です」など、相談者が置かれた状況をまったく思いやらない冷たい内容だった。

 むろん、一般的な情報サイトには、「性交渉以外でも、感染する場合がある」と画一的に書いてはあるが、咲子さんが欲しいのは、もっとリアルな情報だ。

 ほかには「温水トイレで膣を洗いすぎると、膣トリコモナス症と同じ症状が出る」という情報も見つかり、大いに興味をそそられた。

 しかし結局、夫や周囲に対するアクションは何一つ起こさないまま、咲子さんは治療を終えた。今のところ、体調に異変が起きたという話は聞こえてこない。幼い子どもたちも無事だ。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)