「流山市」のマンションは“買い”なのか?
米国流のマーケティング戦略が奏功して、
働き盛りの子育て世帯の流入に成功

【第2回】2018年5月1日公開(2020年8月5日更新)
長嶋修:株式会社さくら事務所 創業者・会長

「千葉県流山市」の新築マンションや不動産の資産価値は今後、上昇するのだろうか? 本格的な人口減少と少子化・高齢化が進む今、不動産取得で非常に重要になるのが「自治体選び」といった視点だ。「千葉県流山市」は、高度成長期に発展した郊外型ベッドタウンの多くが人口流出に苦しむ中、子育て世帯の誘致に成功している。(さくら事務所創業者・長嶋修

2017年の人口増加率は2年連続千葉県内トップ

 高度成長期ににぎわった郊外のベッドタウン。千葉県、茨城県、埼玉県の郊外都市の多くは人口減少・高齢化の荒波に飲まれ、税収の減少から、自治体経営が厳しくなり、それがさらに不動産価格の減少を招いている。

 ところが、こうしたベッドタウンの悪循環から脱却を図っている自治体がある。東京都心から30キロに位置する典型的なベッドタウン「千葉県流山市」だ。周辺自治体の多くが人口頭打ち、減少傾向をたどる中、人口増加の続く流山市は、2017年の人口増加数4389人、人口増加率は2.5%で2年連続千葉県内トップだ。65歳以上の高齢者比率は現在24%程度だが、10年後も25%程度にとどまる。合計特殊出生率は2004年に1.14と、国や県の平均を下回っていたが、2016年には1.57とおよそ40%も上昇、千葉県内2位となった。

 特筆に値するのは人口の「内訳」。周辺自治体では少子化・高齢化が着実に進行中だが、流山市は30-40代の子育て世代とその子供世代が、下図のように、着実に増加している。

流山市の世代構成推移(住民基本台帳よりさくら事務所作成)
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1回100円で利用できる「送迎保育ステーション」

 井崎義治市長は異例の経歴の持ち主だ。アメリカに12年間住み、都市計画コンサルティング会社に従事、日本では民間シンクタンクで都市政策やマーケティングにかかわる経歴を持つ。自治体運営を「経営」ととらえ、人口動態が低迷し、高齢化率が上昇していた流山市を「マーケティング」と「ブランディング戦略」で大きく変えた。充実した自治体経営には潤沢な税収が欠かせないが、そのためには担税力のある世帯に、流山市に住んでもらう必要がある。

 着目したのは、「DEWKS(デュークス)」世代だ。子供を持つ共働き夫婦であり、多くの税収を払ってくれる。そのため、各種の子育て支援のほか、市内2か所の駅前に「送迎保育ステーション」を設置。子供は、送迎保育ステーションからバスで各保育施設に送られ、夕方には各保育施設からバスで送迎保育ステーションへ子供が送られる。

 駅前にこうした一時預かり施設があれば、親は出勤前に駅まで子供を連れて行けばよく、そこから電車に乗って直接勤務地に行ける。帰りはやはり勤務地から駅まで行けば、そこで子供を引き取ることができる。この仕組みは1回100円で利用可能だ。この仕組みを知って流山市にUターン、Iターンする子育て世帯が増加した。

 さらには2010年から保育園を毎年増設。この8年間で認可保育園数は2.8倍の48園、受け入れ定員数は2.8倍の5562人となった。小中学校の教育水準向上にも力を入れている。とりわけ英語教育においては、全ての小学校に英語活動指導員を導入し、小学校5-6年生の英語授業をサポート。全中学校にALT(外国語指導助手)を導入した。すると、英検3級相当の英語力を持つ中学3年生の割合が、全国平均36.1%に対し流山市は51.1%に達している。

緑化に協力した住宅は、住宅ローン金利を優遇

 さらには良質な住環境の整備をもくろみ、街並みを美しくする5つの「景観条例」をはじめとする都市政策を次々と打ち出し、整備良質な低層住宅の住環境を作るための地区計画を導入してきた。特筆すべきは「グリーンチェーン政策」。接道面に高木を植えてたり、植栽帯を設けた住宅に対し、流山市が「グリーンチェーン認定」といったお墨付きを与え、不動産会社はそれを広告に利用でき、購入者は市内の金融機関で優遇金利で住宅ローン融資が受けられる。

 認定物件はすでに約6000戸ある。東京大学大学院の調査によると、グリーンチェーン認定を受けた中古マンションは、そうでない中古マンションに比べて、一戸当たりの市場価格が494万円も高かったという結果が出た。

「母になるなら、流山市。」
施策を知ってもらうポスターを都内に掲示

 2016年には、子育て中の地元女性の職場となることを目指して造られた施設「Trist(トリスト)」がオープン。趣旨に賛同する東京都内などの会社に、サテライトオフィス(勤務者の自宅に近い職場)を開設してもらいつつ、人材育成による雇用支援、そして創業による雇用創出「子供のそばで働けるまちづくり」を標榜している。

 Tristは、子供を置いて流山から都内に通勤した経験をもとに、学童保育や女性の働き方をサポートする活動を続ける尾崎えり子さん(32)が、JR・つくばエクスプレス南流山駅近くの空き店舗を改装して開設した。

 ポイントは、こうした仕組みをどうアピールするかだ。そこで、流山市では広告の企画や作成などを手がける「マーケティング室」を設置、「母になるなら、流山市。」といったキャッチコピーを刻んだポスターを都内主要駅などに掲示するなどのPRを行った。

自治体同士で人口を奪い合う構図

 流山市はこのようにして子育て世帯を次々と呼び寄せ、地価も上昇に転じている。こうなると市民税は増収、固定資産税も上昇が見込め、自治体経営はますますやりやすく、行政サービスも手厚くなる。井崎市長就任時の2003年の市の予算は350億円程度だったが、2018年度の現在は550億円まで増大。市税収入に占める人件費率は04年度は52%だったが、現在は32%にまで下がっている。

 我が国はすでに、人口・世帯数とも減少に転じている。流山市に子育て世帯の人口流入が起きているということは、他の自治体から子育て世帯を吸い取っているともいえる。自治体はいまお互いに、人口を奪い合っているといえる構図なのだ。

 行政サービスを充実させ市民の居住快適性を高めている自治体と、沈んでいくのを手をこまねいている自治体とでは将来、天地ほどの格差が開くはずだ。不動産選びは通勤時間や駅からの距離のみならず、今後は「自治体選び」といった観点が必須である。

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