多くの日本企業は、この大前提が違う。日本企業には、組織の構造設計がまずありきで、それに人材を当てはめてきた歴史がある。それが「人中心」のマネジメントの妨げとなっている。

 逆に言えば、「人中心」の組織と、力とセンスのある人という二つの条件が揃うと、3次元コンテクストをてこに、一気に視界が開ける。

「分からない」を認める

 その一例を紹介しよう。

 ヤマハ発動機の西城洋志氏は、シリコンバレーのコミュニティーに入り込み、果敢にイノベーションに挑戦しているつわものだ。

 西城氏のシリコンバレー上陸のきっかけは、日本企業によくあるものだった。ヤマハ発動機の経営幹部と西城氏が、オートバイ、マリンプロダクツに続く第3の柱をつくるためにどうすればいいかを議論した結果、新しい企業とビジネスが次々に生まれるシリコンバレーでやってみようということになったという。

 しかし、同社はシリコンバレーとは無縁だ。いきなり組織はつくれないので、「まずは行ってこい」ということで、2014年に西城氏が単身渡米することになった。

 他と違ったのは、“西城氏ありき”から始まり、彼自らが調査して提案する、という流れだった。

 西城氏は、シリコンバレー着任後数カ月間で、500人以上の人と面談したという。ゼロからのスタートでこれだけの面談を重ねることができたのは、西城氏に力とセンスがあったからだろう。その結果、西城氏は3次元コンテクストの一端に触れることができた。

 それだけではない。西城氏は情報を得るには発信することが鍵だと気付いたのだ。自らのビジョンを発信することで、ベンチャー投資や事業開発についての示唆を多くの人から得ることができた。

 こうして西城氏はシリコンバレーでの基本戦略と会社設立を本社に提案したわけだが、受け取った本社では、西城氏をよく知る経営幹部が社長にこう進言したという。

「社長、西城が言っていることを聞いても、本社にいる誰も理解できません。彼を信じるかどうか、彼に投資するかどうかです」

 この瞬間、シリコンバレーでの会社設立が決まった。

 社長は会社設立決定後、シリコンバレーを視察し、帰国後の経営会議で次のように述べたという。

「確かにシリコンバレーでは、UberやAirbnbをはじめいろんなことが起きている。しかし、今までわれわれは見ていなかった。自分たちのビジネスには関係ないと思っていた。今、あそこで起きていることに対して、イエスもノーも言えない。よう分からんとしか言えない。われわれは世界を知らずに経営判断をしてきたのだ」

 ヤマハ発動機は、経営者自らが「分からない」ことを認めた上で、シリコンバレーを知ることが重要だと認識したわけだ。そして、その斥候隊として適任者を選び、その人に賭け、一歩を踏み出した。

 組織づくりはそれからの話だった。西城氏はその後、投資経験もあり日本企業とも相性のいい現地の米国人の獲得に成功し、シリコンバレーのコミュニティーへの橋頭堡を築いている。