「人中心」でなければ、なかなかこうはいかない。日本側の人事ローテーションの都合を優先し、適性などを軽視した人選をしていれば、ヤマハ発動機のシリコンバレーでの取り組みは芽が出なかっただろう。

コンテクストを自ら創る

 1990年代以前は「ジャパン・インク」の事業モデルは明確だった。高品質の製品を大量生産し、輸出して外貨を稼ぐ。高度成長で豊かになった日本市場でサービス業を拡大する──。このような明確で共通のコンテクストでは、緻密な組織づくりが重要だった。

 業務を定義付けてKPIを定め、個人は組織人としての貢献が問われ、組織間の連携がうまくいくようにゼネラリストであることが求められた。そのため個人は定期的にローテーションされ、金太郎あめのようにスキルの平準化が進められた。

 一方、イノベーションが課題の時代になると、今までの常識が通用しなくなり、コンテクストが多様化して混沌としてくる。そこでは、いかに自分のコンテクストを創っていくかが勝負どころとなる。

 西城氏は、シリコンバレーでの本格的な活動開始と同時に、オートバイを時速200キロメートルで運転するロボット、「MOTOBOT(モトボット)」を超特急で開発した。それ自体、すごいことなのだが、これが意味するのは、ヤマハ発動機がシリコンバレーで情報収集する“傍観者”ではなく、コンテクストを創る存在に変身したということだった。

 すると、そのコンテクストに引き付けられた人々が、次々に西城氏の元に集まった。強いチームができるきっかけとなったのだ。このような成果は、従来型の日本企業で、業務命令されて出せるものではない。

 シリコンバレーへ進出するなら、経営トップはその地で何か「分からない」ことが起こっていると認めた上で進出の意義を認識し、自ら人を選び、その人にコミットしてほしい。組織中心の経営から人中心の経営への転換は、経営トップの勇気ある決断に懸かっている。

*「週刊ダイヤモンド」2018年5月12日号からの転載です。