安倍案件という呪縛はない

 一因は、明らかになった事業化リスクの高さにあるようだ。当初約2兆円とされていた総事業費は、FSの試算では2倍にまで膨らんでいるもようである。福島第一原発の事故以降、世界の安全基準が厳格化しているからだ。特にトルコは地震国。「地質調査などを経て、安全性、耐震性を担保した結果だろう」(経済産業省関係者)。

 一方でシノップは、発電した電気をトルコ側に一定価格で買い取ってもらうことにより、事業費を回収する手はずになっている。三菱重工からすれば、「トルコと売電価格の大幅見直しなどについて交渉し直さないと、リスクが高過ぎてプロジェクトに参画していられない」(三菱重工幹部)ほどの、ただならぬ事態に陥っているわけだ。

 振り返ればシノップは、2013年に安倍晋三首相がトルコに渡って日本の優先交渉権を獲得してきた、いわば「安倍案件」だ。当時の日本にとって同プロジェクトは、原発の輸出に色気を見せる中国などとの競争に勝つためにも、三菱重工・アレバ連合という、東芝・ウエスチングハウス連合に代わる新機軸を打ち出すためにも大きな意味を持っていた。

 だが、折しも安倍政権は弱体化している。三菱重工にしても余裕がない。まず屋台骨であるはずの火力発電事業の収益が、市場の大逆風で振るわない。初号機の納入が遅れている国産初のジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の開発を続けるにも、多額の資金が必要だ。

 原発の所管官庁の経済産業省からも、「三菱重工に無理をさせて(原発事業の失敗で債務超過に陥った)東芝のようになられては困る」との意見が出ているという。三菱重工には、シノップからの幕引きを含めた合理的な判断が求められる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)