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スマートフォンの理想と現実

絶妙のタイミングだったシャープ・鴻海の提携
両社の視線の先にあるものは「AppleTV」か?

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第22回】 2012年3月29日
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 また一方で会社法の規定に照らせば、帳簿閲覧権(持株比率3%以上)は渡すものの、会社解散請求権(10%以上)は渡さない、ということになる。首の皮一枚か二枚程度は、シャープに自主性が残されているということだ。このあたりのバランス感覚は、なかなかうまく設計されている。

 堺工場を事実上の持ち合い状態にするということも、経営の効率化(選択と集中)という意味では効果があるだろう。おそらくは今後段階的に同工場で生産する製品ラインナップを絞り込むことになるのだろうが、シャープのロジックだけでは成立しなかったリストラが進められるということは、(もちろんそこで働く方々には気の毒ではあるのだが)経営側の都合からすれば、倒産させずに更正手続きに入れるようなもの、ともいえる。

 こうした細かな調整は、M&Aの実務的にも、可能な限り丁寧な合意形成が求められるし、逆に言えば調整が行き届いているということは、それなりに時間を費やしたということの裏返しでもある。これは私の想像だが、おそらく両社がLCD技術開発の合弁事業設立と報じられた昨年6月の時点から、トップマネジメント同士ではこうした展開の可能性について、水面下で模索を続けていたのではないだろうか。

 一部で懸念されるノウハウの流出についても、少なくとも鴻海グループとの枠組みの中では、一定の歯止めはかかるように思われる。末端に至るところでのインシデントまでは分からないが、マネジメント層に関していえば、鴻海にはそれこそ知財戦略については世界有数であるアップルを長年相手にしてきた実績がある。また一方のシャープも、LCD生産に関してSamsungをはじめ、台湾のVIZIOやAUOと長年係争を重ねてきた。

 両社から詳細な発表はないが、ここまでの業務・資本提携であれば、少なくとも堺工場を軸とした取り組みに関しては、今後何らかのクロスライセンス的な取り決めを結ぶことになるだろう。そしてその実態は、おそらくケース・バイ・ケースの判断を下していくことになるはずだ。その意味で、シャープのこれまでの知財に関する取り組みの成果が、むしろこれから試されるということなのだろう。

スマートテレビの時代が到来間近

 また今回の提携でもう1つ展開が予想されるのは、スマートテレビの本格化である。これは主に北米市場が当面中心となるだろうが、すでに資本市場ではそうした噂が広がっている。というのも、今回の提携が発表される直前、シャープのトップマネジメントがアップルにトップ営業を行った、という話が業界のあちこちで聞かれたからだ。

 ちょうどiPad3が発表される前後だったこと、そしてそこではSamsungのパネルが調達されていたことから、「トップ営業も失敗したのか」という声も聞かれた(その話を聞いた直後は私もそう思った)。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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