「あいまい・もやもや」な欲求にこたえるのが重要な時代です

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。

「オーダーメイド」酒造の驚くべき「おもてなし」

 趣味で米づくりを始めて、今年が3年目だ。

 先日、ふと自分が収穫した米から日本酒をつくれないものか、と思いついた。私は大の日本酒党なのだ。自作の米で自分好みの酒をつくって呑めたら最高だ。

 もちろん酒づくりのノウハウなんてない。ならば「自分好みの酒をつくってくれる酒蔵があったらいいな」と思い、ネットで調べてみた。すると、オーダーメイドでお酒をつくってくれるメーカーが見つかった。

 ホームページから申し込むと、すぐにメールでヒアリングシートが届いた。甘口か辛口か、香りはリンゴ風かバナナ風か、香りの強さはどのくらいかといった数項目の質問に答えるもので、早速回答して返信した。

 おかげで「あいまい・もやもや」としていた自分好みの酒のイメージを、明確に言葉にできた。

 さらに、指定された日にメーカーの工房で酒造体験もできるというので、行ってみた。

 驚いたのは、訪問した私に対する、メーカーのきめ細かな「おもてなし」だ。担当の方が作業の手順をていねいに説明し、私の体験の様子をカメラで撮影してくれた。おまけに、その日以降の、自分が作業した酒が発酵する過程を、ネットで見られるようにするというのだ。

 近年、全般的に日本酒の売れ行きは下降傾向にある。しかしこのメーカーは、顧客の個別ニーズに合わせた小ロット生産を武器に、国内販売量、輸出量ともに増やしている。企業の基盤である商品開発力を「個別対応」によって磨き上げ、収益に結びつけているのだ。

 近年は、価値観の多様化などの原因で、大量生産では利益を上げづらくなっている。個々に異なる需要に応えていかないと、商品が売れない時代なのだ。だが、個別に対応していくにはコストも手間もかかるので、生産現場の反発などもあり、なかなか困難なのが現状だ。

 しかし、私が訪問した酒造メーカーのように、時代の変化にうまく対応するのは十分可能だ。本書『「あいまい・もやもや」こそが高収益を生む』を読めば、そのためのヒントが得られる。

 著者の一人、菅原伸昭氏は総合商社でアジア向け営業に従事した後、FA機器メーカーで台湾・中国・アメリカ・メキシコの現地法人責任者を歴任。その後、機械要素部品メーカーのTHKにて、グローバルマーケティング・商品企画・データ分析に携わった経験を持つ。