働きすぎは身体に悪いとよく言われるが、実際のところ、具体的に何が健康を害するのかはよくわかっていない。同じように週に60時間、70時間働いている人の中にも、活きいきとしている人もいれば、くたびれて倒れる寸前の人もいる。筆者らが長時間労働とワーカホリックの違いを調査したところ、単に労働時間だけではなく、より心理的な側面が健康に影響を与えることが判明した。


 グローバルな介護製品企業の財務担当ディレクターであるハンナは、長時間働く。

 オフィスにいる時間は通常、午前9時から午後5時までだが、自宅で3人の子どもが眠りについてから、さらに4時間働き、深夜までずっとパソコンに向かっている。時には、週末も働く。週に60~65時間働いているわけだが、必要なときには「スイッチを切る」ことができ、毎日活力がみなぎっているように感じるという。健康に不安を感じたことは、これまでない。

 米国の保険会社の戦略担当ディレクター、マイケルの仕事時間はハンナほど長くない。

 彼の1日は通常、午前8時に始まり午後6時には終了する。しかも、金曜日は午後3時に退社することが多い。だが、週平均労働時間が45時間であっても、また独身で子どもがなくても、マイケルはなかなか「スイッチを切る」ことができず、仕事による緊張をほぐすのに苦労している。絶えずメールをチェックし、仕事のことを気に掛けているという。

 マイケルは数ヵ月前の定期健診で、かかりつけの医師からLDLコレステロール値が高いと指摘された。つまり、心血管疾患や糖尿病になるリスクが高まっているのだ。彼は、コレステロール値を下げる薬を処方してもらった。

 働きすぎは健康によくないと、たいていの人は考えている。だが、そのどこが厳密に不健康であるかははっきりわかっていない。長時間働くことが、健康問題を深刻化させるリスクを増大させるのだろうか。それとも他の何か、たとえばマイケルのような仕事への強迫的なメンタリティ−(心的傾向)が、健康に有害なのだろうか。