「それこそいつもは『アベンジャーズ』なんかを上映するような映画館で、お客さんもいっぱい来てくれて、ぼくとスティーヴン・ノムラ・シブル監督の質疑応答でも、観客から活発に質問が飛んでくる盛況ぶりでした。

その中でシブル監督が、“まず坂本龍一の音楽ありき。音楽に合せてこの映画を作っていった”という発言をして、それを受けたぼくが、“映画音楽家はいつも映画に合わせて音楽を作っている。しかし監督は、この『CODA』でぼくの音楽に合せて映画を作ってくれた。これは生まれて初めての経験で喜ばしい”と言ったらすごく受けてました(笑)」

 このトライベッカで上映された『CODA』は、観客のみならず、地元のメディアでも高い評価がされている。

「どうしてだろう? もしかしたら、撮影中にシブル監督にしつこく “お涙頂戴映画だけにはしないで”と頼んだのがよかったのかもしれない。テレビのドキュメンタリー番組などにありがちな、人の涙を誘うためのドラマチックな演出はやめてほしいというお願い。

そのため『CODA』は過剰なストーリーを排して、ただたんにぼくが毎日を生きて、音楽を作っているところを描写しているだけという作品になった。事実を積み重ねているだけだけど、それが観る人に自然とドラマを感じさせる。映画を観る目が肥えている人って、安易で作為的なドラマチックさにうんざりしていると思うので、それがよかったのかもと推測しています」

『CODA』はトライベッカ映画祭での上映後、テネシー州ナッシュビルの映画祭にも招待され、そこでは坂本龍一に栄誉賞が授与された。

「その栄誉賞のトロフィーは、なんとギブソンの本物のギター! いかにもナッシュビルらしいんですけど、ぼくにとって『async』のレコーディングにも使った赤いフェンダーに続き2本目のギターとなりました。うれしい(笑)」

 ナッシュビルに本社があるギブソンはこの5月に破綻。なりゆき次第ではギターのトロフィーはこれが最後になるのかもしれないというのは余談。『CODA』はこの後全米で一般公開されるほか、ヨーロッパやアジアでの各映画祭でまだまだ上映される予定だ。

 4月にはトライベッカ映画祭への出席のほか、27日、ブルックリンに新しくできたライヴ・スペース「ナショナル・ソーダスト」でのコンサートにも参加した。ナショナル・ソーダストは下記で教授が述べているように成り立ちや運営がユニークな組織・会場(詳細はこの記事に詳しい。https://wired.jp/series/seeds-of-change/01_national-sawdust/)。

「このナショナル・ソーダストという会場はアーティスト集団が企画して関わっている会場で、その関係者でもあるジョー(ジョセフ・ブランシフォート)とセオ(セオ・ブレックマン)から、彼らと一緒に演奏しないかと誘われたんです。

 ニューヨークでは、アーティストがそうしたコンサート会場や組織を持つということが増えていて、ナショナル・ソーダストも音楽家や写真家、美術家などで運営されている。

なんでもセオは15年ぐらいメレディス・モンクのグループで歌っているパフォーマーとのことで、でも同時にエレクトロニック中心の自分の音楽もやっているそう。ジョーと一緒にドローン系の即興音楽をやるのでそこにぼくも参加してほしいという依頼でした」

 そういう地元ならではのリラックスした雰囲気なので、単独での参加ではなく、旧知のテイラー・デュプリーと組み、コンサートの前半がジョーとセオの演奏、後半が坂本龍一とテイラー・デュプリーの演奏という構成となり、最後には四者で即興セッションになったという。