クレジットカードは使えないが富裕層は増加中
最後に、今どきのネパールを紹介しよう。
ナラヤンヒティ王宮博物館から南に下るダルバール・マルグ(王宮通り)の、アンナプルナホテルから先の一角が「カトマンドゥの六本木」ともいうべきお洒落スポット。夜、賑やかなクラブミュージックが聴こえてきたので覗いてみると、ビルの屋上につくられたモダンなレストランで、奥ではライブもできるようになっていた。
平日だったので席は3分の1くらいしか埋まっていなかったが、私以外はみな地元の若者たちで、女性はモデルのように着飾っている(実際にモデルかもしれない)。客単価は1人2000円くらいだろうか。たいしたことないと思うかもしれないが、一食200円程度で食事できるネパールでは、これまでなら外国人しか出入りできなかった店だ。カトマンドゥでも、トレンドに敏感な裕福な家庭の子女が増えていることがわかる。

次はSam's One Tree Cafe。1階がクラフトショップになっているオーガニック・カフェだが、オーダーを取りに来た若いウェイターからメモ用紙を渡されて戸惑った。最初は英語がわからないのだろうと思ったのだが、メモに注文を書いて渡すときの様子で耳が不自由なことに気がついた。
ウェイターの若者は、他のスタッフとは手話で話していた。聴覚障がい者を雇っていて、スタッフも手話が使えるのかと感心したのだが、実は厨房も含め、この店はマネージャーを除く全員が聴覚障がい者で運営されていた。
客を見ていると、いろんな反応があって面白い。
ウェイターがメモを渡しているのは外国人で、地元の客はふつうに話しているからネパール語なら唇が読めるのだろう。スタッフの動きもごく自然なので、彼らが障がい者だと気づいていない客もいる。
ヨーロッパ系(とりわけ女性)は、相手が耳が不自由だとわかると、まずは身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとする。それに対して(私を含め)アジア系は、要件を紙に書いて伝えようとする。
スタッフはみなきびきびと働いており、オーガニックの野菜をつかった焼きサンドウィッチも美味しかった。
なお、ネパールではホテルを除きクレジットカードが使えるところがほとんどなく、停電が多く通信環境も不安定なので旅行会社でも現金払いが求められる。町中ならATMはあちこちにあるので早めに用意しておこう。

*『地球の歩き方 ネパールとヒマラヤトレッキング』を参考にしました。
橘 玲(たちばな あきら)
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)が好評発売中。
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