『週刊ダイヤモンド』6月9日号の第1特集は「最凶官庁 財務省の末路」です。国家の予算編成権と税金の徴収権をその手に握り、「最強官庁」の名をほしいままにしてきた財務省。その組織が決裁文書の改ざんという前代未聞の不祥事を引き起こしました。信用失墜の底なし沼にはまり、「オオカミ少年」と化した財務省ですが、その背景を探っていくと、省庁再編や接待汚職問題、政治主導による首相官邸への権限集中によって、その権勢を削がれ続け弱体化してきた悲しい現実が見えてきます。組織が落ちぶれていく過程で、官僚としての矜持やあるべき姿を見失っていったのかもしれません。果たして、財務省は自浄作用を発揮し、かつての輝きを取り戻すことができるのか。現役財務官僚や事務次官をはじめとしたOBの証言を基に、その実像に迫りました。

最強官庁・財務省は
なぜ稚拙な取引をしたのか

 決裁文書の改ざんと、交渉記録の意図的な廃棄・隠ぺいにまで追い込まれた森友学園との国有地の取引。文書による後の検証に耐えられないような稚拙な取引を、最強官庁の財務省と近畿財務局は、なぜしてしまったのか。

 国会では、8億1974万円とした地中のごみ撤去費の算定根拠など、売却に向けた手続きの過程に関心と質問が集中しているが、それは取引の主導権をすでに森友側に握られた後の出来事だ。

 国会に提出されたこれまでの文書を眺めると、むしろ取引の大きなターニングポイントは、主導権が森友側に移る以前、売却の前段階となる「貸し付け」までの過程にあることが見えてくる。

 財務省として“一線を越える”腹を決めたとみられるのが、2015年4月14日。この日、近畿財務局は森友側に土地の貸付料について、「下がる見込み」と電話で伝えている。

 森友側が3月末、独自に実施した土地のボーリング調査で軟弱地盤だと判明したため、貸付料を値引きしろと主張してきたことに対し、財務局がほぼ丸のみした格好だ。

 もちろん、財務局が軟弱地盤であることを森友側の調査資料からしっかりと認識、判断できていれば何も問題はない。

 しかし、4月2日の時点で財務局は「相手方が示した地盤調査データは8770平方メートルのうち2ヵ所だけで、これだけでは本地全体の軟弱地盤レベルを判断できるものではない」と整理しており、同9日時点でも「(軟弱地盤といった土地の地耐力不足の)判断は困難」としていた。

 そこから「空白の4日間」を経て、財務局はなぜか追加の調査もしないままに、森友側の主張通りに、土地は軟弱地盤であるという判定を無理やり下してしまっているわけだ。

 軟弱地盤かどうか判断できないので、その要素を考慮し値引きした貸付料にすれば、森友側が貸付契約後に損害賠償請求をしてくるリスクがなくなると考えただけでは、という声が聞こえてきそうだが、それではつじつまが合わない。

 なぜなら、財務省は森友側の調査資料などを「精査した結果、軟弱地盤と判明した」(当時の佐川宣寿理財局長)と国会で繰り返し答弁しているからだ。

 この間に何があったのか。改ざん前の文書には地盤の判断について「当局(近畿財務局)及び本省で法律相談を行った」という記述があり、理財局の職員とやり取りしていた様子がうかがえる。理財局の内外で一線を越える何らかの指示があったとすれば、まさにこの部分だろう。

 そのとき、財務省の幹部たちはどこまで事情を把握していたのか。自らに都合の悪い文書はすぐに廃棄、隠ぺいする組織にあって、自浄作用による積極的な情報開示や説明を期待すること自体、もはや不毛なのかもしれない。

財務省はかつての輝きを
取り戻すことができるのか

『週刊ダイヤモンド』6月9日号の第1特集は「最凶官庁 財務省の末路」です。

 決裁文書の改ざんの実態を調べるなかで、財務省のこれまでの歴史に改めて目を向けると、「最強官庁」と呼ぶのがもはや皮肉になってしまうほど、権力を失い弱体化した悲しい現状が見えてきます。

 ときに、政治家や他省庁の官僚たちを手のひらで転がしてきた過去の栄光に縛られ、首相官邸を軸にした「政治主導」の奔流に逆らい続けた、そのツケが今まさに回ってきているようにも映ります。

 組織が落ちぶれていくその「高低差」が大きいと、こうしたモラルハザード(倫理観の欠如)が起き得るのだという教訓を示すと同時に、政官のあり方を改めて問い直しているのかもしれません。

 特集ではさまざまな角度から、財務省の過去と現在、未来について検証しています。最強官庁としてのかつての輝きを取り戻すことができるのか、読者の方々が判断する一つの材料になれば幸いです。