2016年の下半期、米国大統領選挙キャンペーン期間中、異例の経歴を持つ“トランプ大統領”の誕生が現実味を帯びるようになると、中国の党・政府・軍、そして政府系シンクタンクや大学教授の間では「トランプは中国に何をもたらすか?それは契機なのか不安なのか?」という観点から対応策を練り始めていた。

“トランプの米国”に対する戦略的思考は
「可塑性」と「可予測性」

 指標は大きく分けて2つ。中国語で表現すると、1つは「可塑性」、もう1つが「可予測性」である。文字通り、前者は何かを作り出せる可能性を秘めていること、後者は予測可能性を擁していることを指す。

 この2つの指標は、現在に至るまで、習近平率いる中国共産党指導部が“トランプの米国”に対応する過程における戦略的思考の源泉になっているというのが筆者の考えである。

「アメリカ・ファースト」をスローガンとし、環太平洋連携協定(TPP)からの撤退や同盟国への責任・負担増加要求など孤立主義的、一国中心主義的なスタイルやアプローチを赤裸々に表現し、自由貿易システムや多国間主義、“世界の警察官”としての役割などをことごとく否定するような主張を、中国は当初「可塑性」という観点から戦略的契機であると考えていた。

 習近平政権は、“一帯一路”、“新型国際関係”、“人類運命共同体”などを掲げながら国際社会・世論・市場での影響力や発言権の拡大と深化に余念がない。

 中国はトランプの出現を、中国が米国に代わって世界でリーダーシップを行使し、あわよくば世界経済やテロリズム、気候変動といった非伝統的安全保障問題などを解決していく“ルールメーカー”になる契機をもたらすという戦略的思考を持つに至った。

 昨年の世界経済フォーラム(ダボス会議)に出席し基調講演を行った習近平が口にした「我々は断固としてグローバル自由貿易・投資を発展させ、開放の中で貿易と投資の自由化と便利化を推し進め、保護主義に対しては鮮明に反対していく」、「多国間主義を堅持し、多国間体制の権威性と有効性を死守する」といった主張は、まさに中国の戦略的思考を象徴している。