起業を志す若者たちを呼び込もうと躍起になる地方自治体は、なぜ失敗するのか産業が伸び悩み、中小企業が後継者不足に頭を抱える地方自治体は、起業を志す若者たちを地域へ呼び込もうと躍起だ。それらの多くはなぜ失敗してしまうのか(写真はイメージです)

SNSでの拡散を狙ったPR動画をはじめとして、あちこちにはびこる「成果の不透明な地方創生」。プロモーション以前に取り組むべきことがあるのでは?という課題を提示する、70Seeds編集長の岡山史興氏による本連載。第3回は地方自治体が起業移住者をいかに活用できるかを考える。

「300万円で会社が買える時代」
の選択肢を自治体は示せるか

『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社)という書籍が話題を集めている。

 内容としては、企業価値の低い状態にある中小企業を個人で買収し、企業価値を高めて事業収益を得たり売却したりすることを、新しい「投資」として推奨するもの。従来であれば、「個人で企業を買収だなんて現実感に乏しい」と考える人が多かったが、後継者不足に悩む企業が増えたことや「起業」自体のハードルが下がっていることから、現実的な選択肢となってきたことが、同書がヒットしている大きな理由だろう。

 そして、そんな中小企業の課題や「起業」を取り巻く状況は、実は地方創生のトレンドとも密接に関係している。

 下図は連載第2回で紹介した「地方創生の4分類」だが、今回取り上げるのは主に右部分となる、「移住人材による起業/地元企業の利活用」を推進する取り組みについてだ。

 冒頭に挙げた中小企業の後継者不足や、前回のテーマでもあった「地方に若者がしたい仕事がない」という課題に対して、「移住者による起業・地元企業の承継」を施策として掲げる自治体が増えている。そのトレンドを語る上で1つのキーになるのが「地域おこし協力隊」制度の存在だ。

「地域おこし協力隊」とは、地方自治体への移住を促進する施策の中でも特に直接的な取り組みのひとつ。最長3年間という期間限定で、「働く場所」「住む場所」が確保された状態でIターン者を受け入れる制度だ。

 無理なく移住に踏み出せるように見えることから関心を持たれやすいこの仕組みだが、現場から聞こえてくる声は必ずしもポジティブなものばかりではない。