新幹線のセキュリティ対策が
難しいのはなぜか

 航空業界では、過去に発生したハイジャックや自爆テロなどの経験を踏まえ、空港で厳重な保安検査を実施し一定の成果を挙げていることから、高速鉄道でもこれを倣うべきという声は根強い。しかし、定員1323人、16両編成の列車が1日当たり365本運行され、1日45万人以上の乗客を運んでいる東海道新幹線で同様の体制を取ることは、「新幹線の利便性を大きく損なう」としてJR東海は否定的な見解を示している。

 空港のセキュリティ装置は年々進歩している。たとえば2018年2月に成田空港会社が発表した保安検査場刷新計画によると、検査レーンの増設と高度な保安検査機器「スマートセキュリティ」の導入により、機内持込手荷物検査の処理速度を1レーンにつき1時間あたり、これまでの180人から270人に増やすという。

 仮に、これと同等の設備を新幹線に導入したとすると、10レーン用意しても新幹線1本分の定員全員の検査を行うのに30分を要する計算となる。待合室にもホームにも乗客の滞留を許容するスペースはないため、駅はパンクしてしまうだろう。何よりも、発車の30分前に駅に到着しなくては乗車できないのでは、新幹線の価値は半減だ。

 ヨーロッパや中国、インドの高速鉄道で乗客の手荷物検査などを実施している例はあるものの、これらは東海道新幹線と比べて定員で3分の1、運行本数で10分の1程度しかない規模だから実施できるのであって、高速運転と同時に大量輸送も担う新幹線においては、その役割を根本から否定することになりかねないのである。

 新幹線で運輸収入の9割以上を稼ぐ「新幹線一本足打法」のJR東海を筆頭に、JR西日本、JR九州、JR北海道の経営は新幹線がなくては成り立たない。各社は少子化時代の採用難対策と固定費用の削減を目的に、鉄道現業員の省力化によって新幹線の競争力を維持しようとしている。セキュリティ対策強化のために、新幹線の運行本数が減少することはもちろん、保安要員の追加もできるだけ避けたいのが本音だ。

 JR東海は車内改札の省略など車掌業務の省力化を進め、今年の3月から「のぞみ号」と「ひかり号」に乗務する車掌を3人から2人に削減したばかりだった。異常時には車内販売のパーサーと協力して対応するとしていたが、今回の事件を受けて警備要員の添乗を求める声も出てくるだろう。

 2027年に開業予定のリニア中央新幹線では、中間駅は「大胆に効率性と機能性を徹底して追求したコンパクトな駅」と定義し、営業担当の駅員を設けない実質的な無人駅として運営する構想を発表している。駅で手荷物検査を行うようなことになれば、収支計画にも影響を与えかねない。

 しかし、東京オリンピックを2年後に控えた今、テロ対策の観点からも新幹線のセキュリティ強化を求める声が再燃するのは必至である。新幹線の利便性と安全性、そして経営の効率性のバランスをどう取るか、JR各社は大きな選択を迫られる可能性がある。