引きこもり経験者を正社員として雇用している地方企業の、前例のない人材育成術システムとは引きこもり経験者などを正社員として雇用している地方企業の取り組みが注目されている。同社の前例のない人材育成術システムとは(写真はイメージです)

正社員への「見合いの場」を提供
かつてない人材育成を行なう企業

 働きたい、自立したいなどと思っていても、いきなり即戦力を求められる職場環境などのためになかなか就労できず、長期の孤立無業状態に陥る人たちが少なくない。

 そんな中、引きこもり経験者などを、独自の研修制度でお互いの“見合い期間”を経た上で、正社員として雇用している企業の取り組みが注目されている。住宅の屋根や外装工事などを手がける静岡県三島市の「南富士株式会社」だ。

 たとえば、これまでは長年にわたって様々な理由から仕事に就けずにいた人たちが正社員として企業に採用され、いきなり週5日をフルタイムで働こうとしても、「心身が慣れないために続かない」という人が多かった。

 そこで、同社が2017年3月から導入した制度が、「ルーフ・マイスター・スクール」だ。この制度は屋根職人を養成するプログラムで、1期生の3人は7月に正社員になった。

 研修期間は、基本的に3ヵ月。ただ、個人差があるので、それぞれのペースに合わせながら、技術的にも社会人としても仕事をやっていけると判断された段階で、正社員に昇格する。

 しかも研修期間中、生活支援金として月額8万円と交通費が支給されるところが、研修生にとっては大きなポイントと言える。自宅から通えない人向けに、希望があれば住宅の提供の相談にも乗っている。

 この1年の間に、1期と2期の計6人が社員として働いているが、全員が正社員として働いたことがなかった。中には、まったく働いた経験のない人や、10年以上引きこもっていた人もいる。現在は、3期生と4期生が研修中だ。

 もちろん、すべての人が就労につながるわけではない。1期あたり1~2人、「合わない」と辞めていく人もいて、1期と2期は結果的に3人になった。

 この制度を始めたきっかけは何か。同社ではもともと住宅の屋根や外壁の施工を手がけていて、国内トップの実績があった。また、アジアで人材の育成や日本企業のアジアビジネス支援を行ってきた。同社が40年以上にわたって、アジアで「人づくり」をしてきたことにある。
 
 国内に目を向けると、人手不足で人が育てられずに困っているという声が多い一方、生活困窮者や働きたくても働けない人たちがたくさんいるという現状があった。そこで、自分たちが培ってきた「人づくり」のノウハウで、何かできないかと考えていたという。