電気自動車やハイブリッド車などのエコカー分野で出遅れたアメリカがなりふり構わぬ公的助成金の積み増しで、世界各国の電池・素材メーカーをひきつけ、猛烈な巻き返しを図ろうとしている。序盤戦を制した日本も、うかうかしてはいられない。今のように強力な調整役が官民ともに不在のままだと、電池技術の流出に拍車がかかり、量産時代の果実はすべてアメリカに奪われるという事態にもなりかねない。
(ジャーナリスト 桃田健史)

日本の電気自動車コア技術が流出する!?<br />アメリカで始まった電池バブルの凄み
自動車用蓄電池に関わる世界中の技術者が一堂に会するAABC(Advanced Automobile Battery Conference)の第9回会議は6月上旬、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外で開かれた。総勢850人が出席した同会議には日本の電池産業や自動車産業からも多くの関係者が参加していたが、筆者が日本人の「PRESS」とすれ違うことは一度もなかった。

 「EV(電気自動車)は、電池(の技術)がすべてだ」。

 三菱自動車工業の「i-MiEV」開発者も、富士重工業「プラグインステラ」の開発者も、米EVベンチャーのTESLA(テスラ)社の開発者も、同じことをいう。

 ここでいう電池とは、1990年にソニーが小型ビデオカメラ向けなどに量産開始し、その後は携帯電話用として日韓の電気/電池メーカーが増産し、そしていま、EVとPHEV(プラグインハイブリッド車)の「すべて」となった、リチウムイオン二次電池(二次:充放電可能)のことだ。この自動車用蓄電池について、世界中の技術者が一堂に会する場がある。それが、AABC(Advanced Automobile Battery Conference)だ。読んで字のごとく、最先端自動車用蓄電池の世界会議である。これに加えて近年は、LLIBTA(リチウムイオン二次電池関連会議)、ECCAP(キャパシター<コンデンサーの一種>の関連会議)も併催されている。

 2009年6月9日(火)~12日(金)、第9回のAABC、LLIBTA、ECCAPが開かれた。筆者は同9日、米西海岸のロサンジェルス市街から車で30分ほどのロングビーチ・コンベンションセンターの会場に入った。

 総勢850人が出席した同会議。会場を見渡したところ、日本の自動車メディア関係者は誰もいない。また、首から下げるクレデンシャル(参加許可証)の分類を見る限り、開催期間中に新聞、一般/業界誌、テレビなど日本人の「PRESS」とすれ違うことは一度もなかった。

 AABCでは、CARB(カリフォルニア州大気保全局)、トヨタ自動車、ホンダ、フォード、ダイムラー、ヒュンダイ(現代自動車)、テスラ、LG Chem, A123システムズ、GSユアサ、コンチネンタル、リカルド、野村総研などによる38回分(1回20~25分間)の発表が行われた。LLIBTAが18回、ECCAPが19回の発表だった。

 さらに、連日無料の豪華ランチあり、ワインを飲みながらのエキジビションあり、ロングビーチ水族館の全館を借り切ってのディーナーもありと、至れり尽くせり。なんと、トヨタ、A123システムズを筆頭に、大小29社もの企業が後援しているのだ。GM、クライスラーが裁判所における破産手続き中、さらに全米自動車販売はいまだどん底状態というご時勢を考えると、AABCは文字通り「異例の待遇」である。

 こうした「最先端自動車用蓄電池べったり」の日々を送るなか、日米欧の関係者は様々な本音を漏らす。昼間の大会議場でのプレゼンは、あくまでも「建前」。一杯ひっかけた時に「本音」が出るのだ。

 また、日本の関係者の多くは一般的に、海外出張では「羽を伸ばす」ため、「本音」が出るものだ。では、その「本音」を、関係各位への配慮を図りながら、そして筆者の感想を盛り込みながら、ご紹介していこう。