復職が近づくと
ネガティブな発言が…

 幸い、西田さんには制度を悪用しようという意図はなかった。復職を目指し、職場に対する恐怖心や嫌悪感を払拭しようと励んだ。

 しかし、カウンセリングが終わる3ヵ月目に入る頃から「どうせまた休むことになる」「あの職場は自分には合わない」といった弱気な発言が増え始めた。会社に戻る日が近づくにつれ、抑え込んでいたネガティブな感情が顔を出すようになった。

 私は改めて「会社に戻りたいですか?」と尋ねた。

「はい。戻らないとまずいんです」
「どうして戻らないとまずいのですか?」
「働いてお金がないと食べていけないですし、お金がなければ好きなことや楽しいことができないじゃないですか」

 その言葉を聞いて、私は確信した。西田さんにとって仕事は手段であった。人生の楽しいことは、すべて仕事以外のところにある。しかし、楽しみを享受するにはお金がいる。仕事はそのお金を得るために我慢してでもやらなければならないことだったのだ。

 とはいえ、誰もが好きな仕事に就けるわけではない。第一志望の就職先に入社できなかった人もいるし、入社してイメージが違ったと感じている人もいる。

 そういう人でも家族のため、子どものため、住宅ローンを返すために仕事と割り切って苦痛や嫌なことに耐えている人もいる。ただし、それは危ない考え方だ。なぜなら不満や苦痛がストレスとなって蓄積され、精神的な負担になるからだ。ストレス耐性がある人は定年までもつかもしれないが、途中で潰される人もいる。西田さんも潰されるタイプだった。

見失っていた
目的を取り戻す

「彼は働く目的を見失い、職場の嫌な部分にだけ目を向けている。それを自覚してもらって、その目線を変えなくてはならない」

 そう思った私は、彼が今の会社に入社した動機を尋ねた。

「僕、おじいちゃん子だったんです」と彼は少し寂しそうな笑顔で答える。

 西田さんは初孫で、祖父にとても可愛がってもらったそうだ。彼も祖父が大好きで、学生の時は旅行先から必ず土産を贈った。

 しかし、晩年は寝たきりで過ごした。西田さんは暇を作って見舞いに行き、辛そうにしている姿に心を痛めた。

「『祖父のように苦しんでいる人の生活を変えたい。自分にも何かできることがあるかもしれない』と思って今の会社を選んだのです」