日本より5年前の1995年に介護保険制度を始めた国がドイツである。高齢化率は23%と日本に近く、消費税は19%の国だ。高齢者ケアの仕組み、とりわけ、ホスピスなど終末期のあり方に注目して、このほどフランクフルトとベルリンを中心に視察してきた。日本でもやっと議論が始まった死の迎え方を考えたい。

ドイツの入所型ホスピスで見た
笑い声のある「普通の日常生活」

 ドイツの介護保険サービスの中で全国的に事業を広げているのは、宗教系の法人である。大手6社と言われるが、その中でも、カソリック系のカリタスとプロテスタント系のディアコニーが双璧を成す。

 カリタスが運営するマインツ市の入所型ホスピスを訪ねた。フランクフルトから車で1時間弱、ライン川クルーズの出発点がマインツ。活版印刷を発明したグーテンベルクを育てた町でもある。人口は21万人。

ドイツの入所型ホスピス入所型ホスピス、クリストファラス・ホスピスの外観

 住宅地の中に石垣を積んだ壁に囲まれた2階建ての建物が目を引く。屋根裏部屋の白い格子窓が整然と並び、時代を感じさせる。表札に「クリストファラス・ホスピス」とある。

 芝生の庭や玄関には聖母子像があり、かつての修道院の佇まいだ。ところが建物の中に一歩入るとモダンな今風の家庭のようなリビング・ダイニングルームが広がり驚かされる。

ドイツの入所型ホスピスのリビングルームホスピスのリビング・ダイニングルーム。温かみのある造りになっている

 木の床に木肌の収納棚。青色のテーブルクロスにやはり座面の青い椅子。きちんと整えられた中に寛ぎやすい温かみのある造りだ。入所型ホスピスとして改装し、開設したのは2002年1月。

 部屋は8室。10畳ほどの一部屋を案内してもらった。木の床にベッドと小ぶりな食卓2つの椅子、それにゆったりしたソファ。収納棚が揃い、カーテンも青色。木の温もりと青色で統一されたカラーが、とてもスッキリした雰囲気を醸す。

ドイツの入所型ホスピスの室内ホスピスの一室。医療器具は隠され、自宅と変わらない雰囲気に

 壁に組み込まれた棚にはチューブなど看護・医療器具を収めているが、扉で閉めたまま。「利用者に医療を意識させないように配慮しています」とスタッフが説明する。死を間近にした入居者を受け入れるホスピス。迎える考え方は「生きている限り人生は楽しむもの。普通の日常生活が出来るように心がけています」と明快である。

 会議室で説明を聞く中で、入居者たちの生活が次々スライドで映し出される。ベッドで愛犬と戯れたり、訪問した家族がベッド脇で本を読んだりする姿も。テラスで皆で食事を取る人や、バースデーケーキを目の前にした人も。

テラスで食事を取る様子入居者たちの生活をスライドで見せてもらった。写真はテラスで食事を取る様子

 そういえば、英国やオランダのホスピスを訪ねた時には「ホスピスですから、声は小さくして、静かに動いて下さい」と注意を受けたが、ここではそんなことはない。「冗談を言い合い、笑い声をあげるのはいいことですから、皆さんもどうぞ」と言われた。「病院では患者、施設では入所者ですが、ここは違います。来られた方をゲストとお呼びしています」とも話す。運営者目線でなく、利用者目線ということだろう。