『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

  2018年8月号の特集は、従業員満足がテーマである。小売り・流通、飲食、サービス……利益創出のカギは従業員が握っているものの、離職率が高く、現場が混乱していることも少なくない。どうすれば改善が可能なのだろうか。本特集では、「トヨタ生産方式」をヒントにしながら、従業員満足の向上を実現して競争力を構築する方法を探る。

 マサチューセッツ工科大学スローンスクール・オブ・マネジメント非常勤准教授のゼイネップ・トン氏による「『よい職場』が競争力を生む」では、低賃金のオペレーションを根本から見直して従業員への投資を増やし、従業員重視の「よい職場(グッド・ジョブズ)」を実現することこそが企業の成長につながると説く。サービス業や小売業など安価な商品・サービスを提供している企業の多くは、「従業員の人件費を抑えることが競争力につながる」と信じているだろう。だが、低賃金でキャリアの先が見えない従業員が熱心に働くわけがない。実際、現場では離職が止まらず、管理職がその対応に追われ、本来の業務に集中できていない。

 同じくゼイネップ・トン氏による「従業員への投資が業績改善につながる」では、「トヨタ生産方式」をヒントにした「よい職場」戦略(グッド・ジョブズ・ストラテジー)を詳説し、実際にビジネスに応用するうえでどのような手順を踏めばよいかを示す。大手スーパーマーケット・チェーンや医療診断サービスのコールセンター、ペットショップ・チェーンなどの導入事例から、従業員への投資が業績改善に至る過程を明らかにする。

 ウォルマートU.S.社長兼CEOのグレッグ・フォーラン氏へのインタビュー「ウォルマートU.S.社長が語る職場改革」では、「よい職場」戦略を、この巨大小売業者に持ち込んだ際の課題とこれまでの実績について語る。低賃金、貧弱な福利厚生……ウォルマートはこれまで、従業員に厳しい会社というマイナスイメージを世間に与えてきた。しかし、変化の兆しが見え始めている。

 ファミリーマート代表取締役社長の澤田貴司氏へのインタビュー「現場を大切にする会社が最後に勝つ」では、澤田氏が同社で進める、徹底した現場重視の改革が詳細に語られる。コンビニエンスストア業界はいま、重大な岐路に立たされている。ナショナルチェーンによる出店は過当競争が長く続き、もはや店舗数だけでは勝負できない。細分化する顧客ニーズに応じたサービスを実現しようにも、現場は慢性的な人手不足にあり疲弊し切っている。澤田氏は、本部が現場の実情を見ないまま画一的なオペレーションを続けてきたことに問題があり、それが仕事の効率性を下げる要因となって、現場スタッフのモチベーション低下にもつながっているという。

 陣屋代表取締役女将の宮崎知子氏による「最高のおもてなしは従業員満足から生まれる」では、老舗旅館変革のプロセスを詳述しながら、顧客満足を高めるためには従業員満足の向上が重要であるという、宮崎氏の経営哲学が明かされる。創業から100周年を迎える元湯陣屋。これまでに将棋・囲碁のタイトル戦を300以上開催するなど、歴史と伝統を誇るこの老舗旅館は、2009年、10億円の負債を抱えて倒産の危機に瀕していた。そうした中で同旅館の改革に取り組み、わずか3年で黒字転換を果たしたのが、宮﨑知子・富夫夫妻である。旧来の慣習を打ち破って徹底的な効率化を進めると同時に、旅館業としては異例といえる週休2.5日制を導入したり、業界平均を大幅に上回る給与水準を実現したりするなど、従業員満足の向上に努めた。

 ハーバード・ビジネス・スクール教授のデニス・キャンベルらによる「給料よりも大切なもの」では、従業員が経営に対して関心を持つ、オーナーシップの文化を醸成する意義や方策を論じる。半世紀前の米国のブルーカラーにとって、よい仕事とは大手メーカーに勤め、よい給料をもらうことだった。しかし今日、よい仕事=よい給料という図式は崩れている。知識労働者と同様にブルーカラーも、新たなスキルを学び、自分の仕事がどのように会社の成功に役立ったのかを、知りたがっているのだ。