いまやビジネスパーソンが国内外を行き来するのは当たり前となったが、それによって生じる心身の負担は無視できない。本記事では、出張と慢性疾患の関連を調べた米国の研究を紹介する。外泊の頻度が増えると、肥満やアルコール依存など、身体面・行動面のさまざまなリスクが増加するという。


 数年前、会議に出席すべくホテルにチェックインした私は、どこで夕食をとれるのかと、フロントで尋ねた。当ホテルにはレストランはございません、というのがその答えであり、ファストフードチェーンかピザ屋からの配達を頼まざるをえなかった。

 私はピザを選んだが、選択肢の少なさは不愉快であった。非常に不愉快だったので、家に戻ると、健康と出張に関するデータを調べ始めた。

 私の経験は、けっして特別なものではない。アメリカンエキスプレス・グローバルビジネストラベル協会の調査によれば、米国人は2016年に5億件以上の国内出張に出掛けている。そして多くの職場では、出張に関する健康プログラムの中で、予防接種、食中毒の予防に関する情報、社会や政情の不安に対する警告などは提供するものの、健康に関するより一般的な脅威に焦点を当てるところは少ない。すなわち、ストレス、睡眠不足、不健康な飲食、運動不足といった、旅行中に生じがちな副作用である。これらは積もり積もって、慢性疾患のリスクへとつながりうるのだ。

 私と同僚は、出張と慢性疾患の条件との結びつきを調査するために、EHEによる匿名化された電子カルテのデータをあたった。同社は、米国内の企業に勤務する何万人もの従業員に対し毎年、予防健診、人間ドック、健康維持プログラムを全国的に提供している。受診者が受けるサービスには、予防健診に加え、オンライン上の包括的な健康評価もあり、その中には出張の頻度についての質問がある。

 我々はこれらのデータを分析した結果、出張の頻度と、身体面・行動面のさまざまな健康リスクとの間に、強力な相関関係を見出した。

 出張で月に14泊以上自宅から離れて過ごす人は、1~6泊の人に比べて、肥満度を表すBMIのスコアが有意に高かった。そして、次のような報告の傾向も有意に高い。健康に関する低い自己評価、不安にまつわる臨床症状、抑うつ、アルコール依存、運動不足、喫煙、睡眠障害などである。肥満である確率は、月に21泊以上出張した人のほうが、1~6泊の人と比較して92%高かった。また、この「超出張組」は最低血圧も高めで、高比重リポタンパク(善玉コレステロール)は低めであった。

 我々が見たデータ中で、出張が月14泊以上の従業員は12%程度にとどまっている。だが、多数の出張者の間でこれらすべての健康状態が群発していることは、彼ら自身の健康と、彼らが勤務する組織の健全性の双方にとって、憂慮すべき事態だ。

 肥満、高血圧、喫煙、抑うつ、不安、睡眠不足、アルコール依存などを含む、身体面・行動面・精神面の健康の問題は、雇用主にとってもコストになる。高額な医療費請求、従業員の生産性とパフォーマンスの低下、常習欠勤、疾病就業(体調が悪いのに出勤し、生産性が下がること)、短期的な身体障害などが生じるからである。こうした問題の影響によって、クライアントや取引業者との関係が損なわれたり、解消に至ったりすることにもなりかねない。

 我々の調査結果は、他の複数の研究によって裏付けられている。世界銀行のスタッフとコンサルタントを対象とした健康保険請求に関する研究では、出張者のほうが、出張のない同僚よりも、喘息や背部障害などの慢性疾患を含めたあらゆる健康状態について、保険請求率が有意に高かったことが示されている。出張によって最も増えた請求項目は、ストレス関連の障害であった。

 世界銀行に関する別の研究では、スタッフのほぼ75%が、出張に伴うストレスが「強い」あるいは「非常に強い」と報告している。そして、ある大手多国籍企業で実施された健康リスク評価アンケートを分析した研究によれば、海外出張は、アルコール摂取量の増加、仕事のペースについていく自信の低下、任務遂行における柔軟性に自信がない、といった傾向に関与していた。