当院では、提供を匿名では行っていないため、子どもに伝える時は誰に助けてもらったのかも同時に伝えることができる。治療の前の段階で、もし親が肯定的にこの治療を受け入れていなかった場合は治療に進むことはできません。

――非配偶者間の不妊治療を選択した夫婦の多くは、その事実をなかったことにしたがるものでは?

 精子・卵子提供が、子どもを持つ手段としてまだマイノリティである以上、子どもへの告知を強いることはしていません。しかし、当院では、自分たちが子どもを持つために選んだ手段そのものを、なかったことにしたいと思う患者さんには、ご協力は難しいと最初に伝えています。

 何故ならば、何らやましいことをしているわけではないからです。親が堂々と治療を前向きに受け入れていなければ、将来子どもとの関係に必ずや影響が出ると思います

――ある種世間の“タブー”に臨むのだから、それ相応の覚悟が必要ということですか。

 そういう意味の覚悟ではありません。先に述べた「生殖障害者」は夫婦の努力ではどうにもならないこと。他の病気と同じで、それに対して医療や他者の力を借りることは、本来まったく恥ずかしいことではない。悩んだ末に自分たちの選択した道を決してタブーとか、うしろめたいと思う必要はないのです。もし思うのなら選択しないほうが良い。

 とくに、男性は自分に原因があった場合の落ち込みようは、女性の比ではありません。

 今も残る男優位の日本において、精子がないとわかったとき、「男として存在意義がない」「処刑台に立たされた気分だ」などと、自己否定に走るケースが多いようです。

 現在では原因の半分が男性とも広く知られるようになってきたので、少しずつ男性の意識も変わってくるとは思いますが。

――不妊の原因がどちらにあるかで、夫婦間の力関係も変わるといいます。

 無精子症の夫婦では、奥さんが優位となって話をされる場合がありますが、そのような場合、「今回の場合は御主人に原因があってのこと。しかし、これからの人生において、奥さんが乳癌や若年性認知症などになるかもしれません。その度に夫婦に優劣が生じるような御夫婦でしたら、お力にはなれません」とお話しします。