橘玲の世界投資見聞録 2018年7月27日

ロシアW杯会場となったカリーニングラードが辿った
900年におよぶ数奇な歴史
[橘玲の世界投資見聞録]

プロイセンはのちのアメリカに近い人工的な国家として誕生した

 ドイツ騎士修道会は14世紀に最盛期を迎えたが、15世紀には凋落し、ポーランドとの戦争でマリエンブルクが陥落(1454年)、西プロイセンを失った。かろうじて東プロイセンの領有は認められたものの、これもポーランドの宗主権下に置かれることになった。16世紀になると、ルターの宗教改革に共鳴して騎士修道会はカトリックを離れ、世俗化して「プロイセン公国」となった(1525年)。

 この当時、南(オーストリア)のハプスブルク家とともに、北ドイツに台頭したのがホーエンツォルレン家で、ベルリンやポツダムのあるブランデンブルク辺境州を拠点とした。じつは「プロイセン公国」建国時のドイツ騎士団長がホーエンツォルレン家に遠縁にあたり、そのつながりでブランデンブルク選帝侯は17世紀にプロイセン公国を継承し、ポーランド領である西プロイセンを挟んで、バルト海沿岸にブランデンブルク地方とプロイセン地方の2つの領土をもつことになった。現在のカリーニングラードは、もともと「飛び地」だったのだ。

 ブランデンブルク=プロイセンを2つに分断する西プロイセンは、「ポーランド回廊」とも呼ばれた。その後のプロイセンとドイツの国家的情熱は、このポーランド回廊を奪還して国をひとつにまとめることに注がれることになる。

 プロイセン勃興の立役者は「大選定侯」と呼ばれたフリードリッヒ・ヴェルヘルムと、その孫フリードリッヒ1世で、常備軍や租税制度を整備し、領内の貴族・騎士たちのちからを弱めて王権を強めようとした。ちなみに「選帝侯」とは神聖ローマ帝国に特有の呼称で、ローマ王(ドイツ王)を選定する権利を有する有力諸侯のことだ。

ケーニヒスベルク大聖堂           (Photo:ⒸAlt Invest Com) 
ケーニヒスベルク大聖堂の内部。プロテスタンの教会らしく簡素だが、パイプオルガンは豪華               (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 ここで興味深いのは、プロイセンがもともと東方植民によってつくられた国で、「王家」であるホーエンツォルレン家は婚姻や権謀術数で「蛮族の地」を獲得しただけで、そこに歴史的・文化的な基盤をなんらもっていなかったことだ。このように考えると、プロイセンはのちのアメリカに近い人工的な国家として誕生した。プロイセンが軍隊の増強や中央官僚制の整備で権力を集中させようとしたのは、統治の正統性をもたない人造国家を支配するのにほかに方法がないからでもあった。こうしてプロイセンは、「軍事国家」として急速に台頭することになる。

 宗教改革に端を発した30年戦争(1618~1648年)とヴェストファーレン条約によってヨーロッパがようやく国家としての体裁を整えつつあるなか、1688年に選帝侯を継承したフリードリヒ3世は大きな困難に直面していた。周辺諸国でつぎつぎと「国王」が誕生しているにもかかわらず、「ドイツ王」のいる神聖ローマ帝国内では「王」を名乗ることは許されないのだ。

 そこでフリードリヒ3世が目をつけたのが「プロイセン公国」だった。ブランデンブルクは神聖ローマ帝国の領土だが、東の飛び地は版図には入っておらず、「プロイセン王」を名乗ることはできるのだ。こうして1701年、ブランデンブルク選帝侯フリードリヒ3世はプロイセンのケーニヒスベルクにおいて戴冠式を執り行い、初代プロイセン王フリードリヒ1世となった。ケーニヒスベルク(カリーニングラード)はプロイセン、すなわちドイツ発祥の地となったのだ。

 フリードリヒ1世の息子のフリードリヒ・ヴィルヘルム1世(軍人王)はプロイセン軍制の柱となったカントン(徴兵区)制度を創始するなど強国化にまい進し、大規模な植民・開墾事業によって国家収入の増大をはかり、中央集権的官僚制度を整備した。

 つづくフリードリヒ2世(大王)は強力な常備軍と潤沢な資金を使って領土の拡大を進め、オーストリア継承戦争でシュレージェン(現在のポーランド南西部からチェコ北東部)に侵攻し、1772年にはプロイセン、オーストリア、ロシアの3国によるポーランド分割で西プロインセンを手に入れた。こうしてブランデンブルクとプロイセンは地続きになり、「プロイセン」はヨーロッパの強国としての体裁を整えていく。

 ケーニヒスベルクに生まれ、生涯をこの町ですごした哲学者のカント(1724~1804)が生きたのはこの時代だ。プロイセンが合理的(近代)国家として勃興しつつあったのは、「啓蒙の世紀」でもあった。

ケーニヒスベルク大聖堂のあるカントの墓   (Photo:ⒸAlt Invest Com) 
墓所にはカントの棺が置かれている      (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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