橘玲の世界投資見聞録 2018年7月27日

ロシアW杯会場となったカリーニングラードが辿った
900年におよぶ数奇な歴史
[橘玲の世界投資見聞録]

数奇な歴史を経て、ロシアW杯の会場となったケーニヒスベルク

 第二次世界大戦の敗北によって11世紀からつづくドイツ東方植民の歴史は全否定され、東プロイセンも解体された。ケーニヒスベルクを含む北側はソ連領となり、ロシア革命の英雄ミハイル・カリーニンにちなんでカリーニングラードと名づけられた。

 約12万人とされるケーニヒスベルクのドイツ市民は抑留・追放され、その後は軍事拠点として、軍人を中心に多くのロシア人が移住した。現在、カリーニングラードに住んでいるのはこのときの移住者の子孫だ。

 じつはサンクトペテルブルクからカリーニングラードに向かう飛行機のなかで、乗客がみな背が高いことに驚いた。これは市内でも感じたことだが、男性なら190センチ、女性でも180センチちかいひとをあちこちで見かける。確証があるわけではないが、これは冷戦時代の市民の多くが軍人だったことと関係があるのではないだろうか。――カリーニングラード市内では、迷彩パンツ姿の退役軍人らしきひとをよく見かけた。

レストランで見かけたロシア人家族。祖父の誕生パーティで孫娘がロシア民謡を披露する  (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 冷戦時代はエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国やベラルーシがソ連の支配下に置かれていたため、カリーニングラードは本国と地続きだった。それが冷戦終焉でバルト三国が独立したことで、ロシアの飛び地になってしまった。

 旧ソ連の他の地域と同じくカリーニングラードも、ソ連解体によって経済が疲弊し、治安の悪化や薬物の蔓延が社会問題になった。だがプーチンの時代になると、世界的な資源価格の高騰を受けて再開発が進められ、市街地や公園が整備されていく。

 第二次世界大戦のケーニヒスベルク攻防戦によって古い市街は大打撃を受けたが、ソ連はそれを復旧するのではなく、よりかんぜんに破壊した。プロイセン王が戴冠式を行なったケーニヒスベルク城は跡形もなく壊され、そこに「ソ連の家」と呼ばれる不格好なビルが建てられた。科学的社会主義の時代には「プロイセン」の名残はすべて封建的で、「進歩的」な制度や建築物に置き換えられたのだ。

かつてのケーニヒスベルク城     (Photo:ⒸAlt Invest Com) 
ケーニヒスベルク城跡には「ソ連の家」が建てられた  (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 ソ連解体後の混乱のなかで「ソ連の家」は誰も使わない廃墟となり、そのまま放置されていた。今回のワールドカップではその隣(旧ケーニヒスベルク城の敷地)がファンサイトになり、大型スクリーンに試合を映し出すイベントが行なわれたことで、外壁を塗りなおすなど多少の修復が試みられたようだが、近づくと窓ガラスは割れ、コンクリートにひびが入ったままであることがわかる。

 カントの墓のあるケーニヒスベルク大聖堂も冷戦時代は焼け残った廃墟のまま放置されていたが、こちらは1990年代半ばから修復作業が行なわれ、いまでは豪華なパイプオルガンによるコンサートが開かれている。

 北方十字軍の植民による「飛び地」として生まれた東プロイセン(ケーニヒスベルク)は、プロイセン王戴冠の地となったことで「ドイツ帝国発祥の地」となり、ナチスの時代を経てソ連に併合されたことで、こんどは冷戦終焉後にロシアの「飛び地」となった。

 この数奇な歴史に思いを馳せるためだけでも、訪れてみる価値はあるだろう。 

カントが(おそらく)散歩したであろう湖畔の道    (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書) 。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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