橘玲の世界投資見聞録 2018年8月2日

ロシア有数のリゾート地ソチが臨む
黒海という存在
[橘玲の世界投資見聞録]

ロシア国内でも評価が分かれるスターリン

 ソチはビーチでのんびりするにはいいところだが(とはいえ砂浜ではなく丸石のビーチがつづく)、とりたてて観光する場所があるわけではない。そのなかで強いてあげれば、スターリンの別荘になるだろうか。

 ソチのマチェスタは良質な硫黄泉で知られており、多数のサナトリウムがつくられ、皮膚病や内臓疾患の治療のためにロシアじゅうから患者がやってくる。グルジア出身のスターリンはこの温泉を気に入り、下の写真の豪華なサナトリウムにはスターリン専用のバスルームもあったという。

スターリンが足繁く通ったマチェスタの温泉治療院(サナトリウム)       (Photo:ⒸAlt Invest Com)


  スターリンの別荘(ダーチャ・スタリヤーナ)はマチェスタから南に下った“ゼリョナヤ・ロシチャ(緑の林)”と呼ばれる山のなかにあり、周囲の景観に溶け込むよう建物全体が緑に塗られている。内部はスターリンの執務室のほか、ダイニングルームやビリヤード室、プールなどが公開されている。

 スターリンは(さまざまな意味で)現代史に大きな影響を残したが、ロシア革命の立役者であるレーニンや非業の死をとげたトロツキーと比べて、あまりにも暗い印象が強い。ロシア国内でも評価は分かれており、多くは否定的だが、「独ソ戦(第二次世界大戦)でヒトラーを撃退できたのはスターリンが指導者だったからだ」との声もあるようだ。

スターリンの別荘は建物全体が緑に塗られている (Photo:ⒸAlt Invest Com)
別荘にあるスターリンの執務室      (Photo:ⒸAlt Invest Com)
ソチの公園のレーニン像。頭に鳥がとまっている  (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

「黒海」の名前の由来とは?

 オスマン帝国の時代に黒海は「カラ・デニズ(黒い/暗い海)」とされ、この名がヨーロッパに伝わり定着したという。だが海の色が黒いわけではなく、オスマン人がなぜこう呼んだかは諸説ある。

 古代ギリシア人が黒海で活動を始めた紀元前1000年紀の初めには「ポント・アクセイノス(暗い/薄暗い海)」の呼称が伝わっており、それはおそらくイラン語に由来する。だがその後、黒海交易が活発化するとギリシア人はこの海を「ポントス・エウクシアヌス(客あしらいのよい海)」という奇妙な名前で呼ぶようになった(この由来は不明)。その古名が長い時代を経てオスマン時代に復活したというのがひとつめの説。

 ふたつめは、黒海はローマ時代に「偉大なる海」と呼ばれており、オスマン語の「カラ」には「偉大な」「途方もない」という意味もあるため、一種の誤訳によって、「偉大な海」が「黒い海」になったというもの。

 3つめは方角と色を結びつける風水の考え方が遊牧民族に伝わり、黒は北、白は西、赤は南、青は(時に)東を意味するという説。アナトリア地方に興ったトルコ系民族にとって、黒海は「北の海」すなわち「黒い海」ということになる。オスマン語と現代トルコ語で(西にある)地中海が「白い海」と呼ばれていることを考えると、一見無理筋なこの説にもそれなりの信憑性はある。

 地図を見ればわかるように、黒海は内陸部にあり、細い海峡で地中海(エーゲ海)とつながっている。ここから、もともとは淡水湖だったのではないかというのは誰もが思いつくだろう。

 じつは正確な地図を持たない古代ギリシア人もこのことに気づいていたようで、紀元前1世紀のギリシア人の旅行記には、エーゲ海のサモトラケ島に伝わる奇妙な伝説が紹介されている。それによると、太古の昔、東方の黒海は大きな湖だったが、あるとき水が突然あふれ出し、洪水は沿海の村を破壊し、エーゲ海に向かって流れ込んでボスポラスとダーダネルスの両海峡となった。サモトラケ島では漁師の網に彫刻の施された大理石の柱の一部がかかることがあるが、これは黒海の大洪水が地中海の水位を上げ、浸水して滅んだ古代文明の一部なのだという。

 黒海の水位が上昇した理由をギリシア人は、ドナウ川、ドニエプル川、ドン川というヨーロッパ大陸の5大河川のうち3つが流れ込んでいるからだと考えた(残りの2つはカスピ海に注ぐヴォルガ川とウラル川)。氷河期が終わって地球が温暖化すれば河川の水量は多くなるだろうから、これはかなり説得力があり、啓蒙主義時代の自然科学者も同じように考えていた。

 だがその後、この説は否定されることになる。温暖化によってたしかに湖の水位は上昇するだろうが、北極圏の氷河が溶けた水のほとんどは海に流れ込むのだから、内陸の湖以上に海の水位が上昇するはずなのだ。古代ギリシア人の慧眼は素晴らしいが、実際は地中海の海水が黒海に流れ込むことでふたつの海はつながったのだ。

イスタンブールのボスポラス海峡       (Photo:ⒸAlt Invest Com)

作家・橘玲の切れ味鋭い見解が毎週届く!
有料メルマガの
無料お試し購読受付中!
お試しはこちら

幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,500円(+税) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額800円+税
いますぐ試す(20日間無料)

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。