昨年6月の開港以来、揉め事の絶えないのが静岡空港だ。除去すべき立木をそのまま放置し、開港が遅れるという前代未聞の不手際でミソをつけてしまった静岡空港だが、開港後もドタバタが続く。難問奇問が次から次へと目の前に立ちはだかり、まるで空港そのものがダッチロールしているかのような状況だ。

 もっとも、その責任はひとえに事業主体の静岡県にある。何のことはない、争いの種を県自らがまいているからだ。

 年度末を迎え、ある数値に県全体が一喜一憂している。日本航空(JAL)の静岡―福岡便の搭乗率である。今年1月の搭乗率は県の必死の努力も及ばず、59.6%。6割にも届かぬ厳しい成績に終わった。開港からの通算では64.4%となった。JALは3月末で静岡空港から完全撤退することになっており、2カ月を残すのみ。この福岡便の搭乗率が揉め事の種となっている。

 静岡県は、開港直前にJAL福岡便に対して「搭乗率保証制度」を打ち出している。3便就航するJAL福岡便の搭乗率(2009年6月4日から10年3月31日までの累計値)が7割未満となった場合、県が運航支援金を払うというものだ。具体的には、7割に満たない分に対し、1席当たり1万5800円をJALに支払う取り決めになっており、県が支払う運航支援金は搭乗率1%につき約2870万円になる。

 JALの福岡便に限定した優遇策には県議会からも異論が出たが、当時の石川嘉延知事は「まさかの時の下支えだ」と語り、需要があるので実際に保証金を支払うことはないだろうと胸を張った。しかし、実際にそれだけの需要があるならば、JALも搭乗率保証など求めないはずだ。現実と願望は異なる。7割を上回ったのは、09年11月のひと月のみ。それも機材の小型化が要因だ。

 あまりにも不公平で不平等なJAL福岡便の搭乗率保証に対し、経済学者で静岡文化芸術大学学長だった川勝平太氏がその見直しを県知事選挙で訴え、前知事の後継候補を退けて当選した。そして、就任直後からJAL側とのトップ会談を求め、「とげを抜きたい」と、廃止を含む見直しを主張した。

 ところが、周知の通り、JALはそれどころではなくなっていた。経営危機が進み、静岡空港などからの完全撤退を発表した。さらに、法的整理である。

 JALの完全撤退に激怒したのが、川勝知事だ。JALの一方的な撤退は「運航支援に係る覚書の精神に反し、信義則違反だ」とし、搭乗率保証金の支払い拒否を明言した。訴訟も辞さないとの強い姿勢を示した。