『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2018年9月号の特集タイトルは「発想するチーム」である。ほかにない秀逸な商品・サービスをいかに生み出すか。アイデアの重要性はますます高まっている。ところが、発想法を学び、現場が活性化されたとしても、組織全体としてみるとなかなかアウトプットに結実しない。強いアイデアを生み出し、組織全体で形にするにはどうすればよいか──本特集では、成果志向の発想法を考える。

 マサチューセッツ工科大学リーダーシップ・センターエグゼクティブディレクターのハル・グレガーセンによる「ブレインストーミングではあえて『問い』を追求せよ」では、一般的に「答え」を出すブレストではなく、そもそも前提となる「問い」を探求するという新しい手法を提唱する。とはいえ、難しくはない。1つのステップが最短で数分間で終わるものであり、3つのステップでまとめているので、速くて楽しく、誰にでも真似ができる。それにもかかわらず、数百の実例から、思いも寄らなかった解決策をもたらしていることがわかっている。

 NOSIGNER代表の太刀川英輔による「生物の進化のように発想する『進化思考』」では、生物の進化プロセスにヒントを得た「進行思考」を提唱する。近年、発想法の一つとしてデザイン思考が注目されている。アイデアを発散的に出すにはよい方法であるが、実はスクリーニング機能が弱いために、最終的に実現可能なアイデアがどれくらい残るかは疑問である。ここで、過酷な環境を生き延びてきた生物の世界には、系統(文脈を把握して適切な形態を選ぶ)、共生(生態系を把握し周囲と共生する)、淘汰圧(よいアイデアに絞り切るために捨てる)といったさまざまな知見がある。これらはアイデアを生成し、スクリーニングする思考プロセスに大いに活用できる。

 カプコン常務執行役員の辻本良三による「個性派集団のひらめきを形にするマネジメント」では、開発スタッフ一人ひとりに創造性を発揮させながら、大規模チームで一つの作品をつくり上げるのに必要な5つのポイントを明かす。カプコンが誇る大ヒットゲーム『モンスターハンター』シリーズは、2004年の発売以降、10年以上にわたり世代を超えて愛され続けている。最新作『モンスターハンター:ワールド』は世界出荷本数800万本を記録した(2018年4月16日時点。ダウンロード版を含む)。同作の完成までには構想から3年半もの歳月を要し、制作に直接関わった人の数だけでも延べ数百人、制作費はハリウッド映画に匹敵する金額である。

 インテュイット会長兼CEOブラッド・スミスによる「インテュイット:デザインから考える組織」では、チームスポーツのように、製品開発の関係者のみならず、トップをはじめ、全員で関わるものという筆者の主張が展開される。1983年創業のインテュイットは、財務管理ソフトウェアとして後発でありながら、小切手台帳や小切手という見慣れたイメージを取り入れて顧客をつかみ、瞬く間にトップシェアを奪い取った。しかし、時とともにデザインより、機能や使いやすさが重視されるようになった。2008年にCEOに就任した筆者のブラッド・スミスは、顧客の感情を揺さぶるような製品であることが必要であり、それには卓越したデザインが求められると考えて、デザイン主導の会社を目指す。

 クレアモント大学院大学教授ピーター F. ドラッカーによる「小さなアイデアの大きな力」では、ドラッカーの経営哲学が示される。ドラッカーは、未来をかたちづくるのは、起業家たちが生み出す構想であると言う。起業家的な小さなアイデアが新規事業の萌芽となり、それが将来のニーズに応え、未来が形成されていくのだ。しかし、概して大企業は、未来への投資に消極的であり、不確実性とリスクを嫌い、多くのアイデアを殺している。アイデアを支援する体制や価値観が失われると、イノベーションが生まれてこないばかりか、その果てには、組織の寿命も短くなっていく。未来を拓く構想にはリスクがつきものである。だからこそ、勇気、努力、信念が求められるのだ。