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ソフトバンクは「儲けすぎ」なのか 撮影:[cipher]

 菅官房長官が21日、「携帯電話料金は4割程度、値下げできる余地があるのではないか」と発言したことで、携帯電話業界に波紋が広がっている。

 ある業界関係者は「寝耳に水」と戸惑い、別の関係者も「4割の根拠がよくわからない」と首をかしげる。

 実は2015年に一度、安倍首相が「家計に占める通信料の割合が高すぎる」として、携帯電話各社に値下げを迫ったことがある。その後、数年に渡って、キャリアは高額キャッシュバックや実質ゼロ円販売、SIMロック解除、中古端末などの環境を整備してきた。しかし目に見えた値下げ効果が見えなかったこともあり、今回の「4割下げろ」発言につながったようだ。

 ただ、この「4割」の根拠がまったくもって不明瞭だ。

格安スマホやサブブランドはどうなるのか

 日経新聞の報道によれば、菅官房長官は「日本の通信料金は海外に比べて高い」といった主旨で発言しており、特にイギリスが5割程度ならば、日本はいまから4割程度、値下げできるのではないか、というのが根拠としてあるようだ。

 しかし格安スマホ勢であれば、すでにキャリアの料金に比べて5割以下の料金プランが設定されている。キャリアにおいても、サブブランドであるワイモバイルが5割以下の料金プランで格安スマホ業界を席巻している。

 ちなみに、ソフトバンク宮内謙社長は菅官房長官の発言を受けて「我々のサブブランドで約1500円のプランを提供している。こうした取り組みも考慮してほしい」と発言。料金値下げに対し、前向きに取り組んでいるとした。

 菅官房長官としては、国民の共有財産である電波を利用しているにも関わらず、キャリア各社が大幅な利益をたたき出している点に納得がいっていないようだ。

 しかし、「キャリアが巨額な利益を出している」という批判に対し、KDDIの髙橋誠社長は「我々は1兆200億円の利益を目指してはいるが、そのうち6000億円は設備投資などをしている。また株主がいるので、4000億円は配当や自社株買いをしている。これを続けていかないことには世界に誇れる日本の通信品質を維持できない。ここはもう少し理解してほしいところだ」と反論する。

 ソフトバンクの宮内謙社長も海外では莫大な設備投資をし、回収していくのが前提としており、「儲けすぎ」という指摘に困惑しているようだ。

 仮に携帯電話料金が4割値下げした場合、ユーザーにとってはとても喜ばしいことだろう。しかし収入が4割減るキャリアにとっては死活問題になりそうだ。

 特に2020年には次世代通信サービス「5G」の開始が控えている。5Gネットワーク構築には当然ながらアンテナや基地局などの設備投資が必要となる。4割値下げで設備投資には影響はないのだろうか。

5Gの料金体系も再検討か

 NTTドコモの太口努5G事業推進室長は「5Gへの設備投資額は、現状行っている設備投資の水準を維持していくことなる。今はLTEに設備投資しているが、これから5Gへの比率が上がっていくことになる」という。

 NTTドコモでは年間5000億円近い設備投資をしているが、将来的にも年間で同規模の設備投資を5Gにしていくことになるようだ。4割の値下げとなれば、設備投資へのインパクトも大きそうだ。

 ただ、NTTドコモとしては5G開始にあたって料金プランを値上げする方向を模索していた節がある。

 「今回の4割値下げ発言は、我々としても深刻に受け止めている。事業へのインパクトは大きくなるかも知れない。5Gでは大容量になるし、このままでの料金体系は難しくなる。大容量の良さを感じてもらう料金体系を考えないといけない」(太口氏)

 同社の吉澤和弘社長も語っていたが、5Gの通信料金は「現状維持」か「やや値上げ」方向で検討を進めていたようだ。しかし菅官房長官が「4割値下げ」と発言したことで、5Gの料金体系についても再検討せざるをえない可能性が出てきた。

ソフトバンク子会社上場にも影響

 また、今回の菅官房長官による発言を聞き捨てならないと思っているのが、ソフトバンクグループの孫正義社長だろう。

 ソフトバンクは携帯電話事業などを手がける通信子会社が年内にも上場する予定だ。

 設備投資も一段落し、いまや膨大な現金収入を回収する時期に突入している。ソフトバンクグループとしては通信子会社を上場させ、株式の3割を売却し、2.5兆円ほどの資金を得ようとしている。

 しかし菅官房長官の発言により、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクグループの株価は下落。年内上場予定のソフトバンク通信子会社の株価にも影響を与えることは間違いなさそうだ。

 携帯電話事業は安定的な収益を生むビジネスという見方であったが、菅官房長官の発言により一気に不透明感が出てきてしまった。

 8月23日より総務省の情報通信審議会で具体的な検討が始まったが、業界関係者は議論の行方に固唾を飲んで見守ることになりそうだ。


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筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。