「ロイヤル・トリニティ・ホスピス」の祈りの間
「ロイヤル・トリニティ・ホスピス」の祈りの間

「ロイヤル・トリニティー・ホスピス」には28のベッドがあるが、入所する利用者は全体の20%に止まっている。あとは通って来る(通所)人と自宅で訪問を受ける人である。「ホスピスは建物の中が全てではない」と同施設のキャロライン・キルティさん。長く緩和ケアに携わり、現在は「サービスの質」を担当している。

「コミュニティ、つまり地域の中に入っていく。地域の人を幅広く受け入れるのもホスピスの役割です」

 地図を示しながら「ロンドン中心部の公園、ハイドパークの南側が管轄地域です」と語る。

 同ホスピスは、ユニークな活動も始めている。認知症の人をショートステイとして受け入れる部屋を1つ持っていることだ。利用者は年間2週間滞在できる。「家族のレスパイト(休養)のためです」。認知症が家族介護者にとって大きな負担となっていることが分かり、またその家族が急増していることから取り組みだした。

ロイヤル・トリニティ・ホスピスに置いてあるコーラン
ロイヤル・トリニティ・ホスピスに置いているコーラン

 英国は、認知症ケアに政府が真っ先に取り組んだ国である。2009年に「認知症国家戦略」を打ち出して、早期診断・早期対応など17項目の目標を掲げたのを皮切りに、2014年にはロンドンで世界初の「主要国(G8)認知症サミット」を開催してきた。

 認知症の人を受け入れる理由として、担当者のヌノさんは「暴力行為の原因が体のどこかの痛みである可能性もあります。緩和ケアが必要とされるかもしれません」と説明する。

 ホスピスとはいえ、ここでは心臓や肺、神経系などの疾患患者も多く迎えており、その延長線上に認知症高齢者もいると考えてのことだろう。いずれも日々の生活に充足し、快適に過ごせるような体制作りという点では変わりない。「私たちの活動の目的はQOL(Quality of Life:生活の質)を高めることですから」と話す。

 特定の臓器や特定の要介護段階にこだわることなく、対象を大きく広げ、最期の時まで継続した関わりを持つことが、これから求められる大きな流れであるようだ。ホスピスが認知症ケアに乗り出したり、高齢者施設が緩和ケアを学んで、ホスピスの役割を果たしていくのもその流れの一環とみていいだろう。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)