HRテクノロジーの台頭で変わる人事部HRテクノロジーの台頭で人事部の役割も変わりつつあります Photo:PIXTA

ここ数年、人事(HR)の現場でテクノロジーを活用する動きが急速に広がっている。求人から採用、教育や人事評価、配置、勤怠など広範囲にわたるテクノロジーの登場に、どのツールを導入すべきか戸惑っている企業は少なくない。一方で、担当者が導入を検討していても、人事部長や経営陣から反発を受けて導入がかなわないケースも多いという。HRテクノロジー研究の第一人者である慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授に、HRテクノロジーの最新事情と導入する人事部の現状について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 林恭子)

2015年頃から本格的な盛り上がりへ
HRテクノロジーが台頭した2つの理由

――HRテクノロジーを提供する企業がこの数年で、急速に増加してきています。HRテクノロジーの変遷と近年急速に台頭した理由をお教えください。

岩本隆岩本 隆(いわもと・たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学部材料学科Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より現職。
Photo by Yoshihisa Wada

 HRテクノロジーは、日本では1970年代頃から大手企業が人事や給与を管理するためにシステムを導入したのが始まりで、そういう意味では以前から活用されていました。

 その後、人材マネジメントの機能を実装した「タレントマネジメント」システムを中心に市場が盛り上がりますが、本格的に活性化したのは2010年以降です。大手ICTベンダーのオラクルやSAPなどがM&AによってHRテクノロジーの市場に参入したことで、スタートアップ企業と大手企業が入り交じり、活性化が進みました。

 タレントマネジメントシステムに関しては、日本でも2010年代に入ってブームが起こるものの、企業が「あまりうまく使いこなせない」という理由から盛り下がってしまいます。しかし2015年に、私が「HRテクノロジー」という言葉を発信したところ、予想をはるかに超えてバズワード化し、現在の盛り上がりへとつながったようです。

 今、HRテクノロジーで一番ホットなのは「エンゲージメント」の分野です。つまり、従業員が企業の業績を向上させることにコミットし、企業は従業員がいきいき働いて最大のパフォーマンスを上げられる環境を作ることにコミットし、対等な関係を築くものです。実際、エンゲージメントスコアの高い会社は業績が高いといわれており、そうした組織作りをサポートするツールの需要が伸びています。

 来年以降、盛り上がると考えられているのが、生産性を高めるためのツールです。自律神経のバランスが良い人はパフォーマンスが高いといわれており、また自律神経の状態は伝搬するので、チームリーダーの自律神経をコントロールすることで組織の生産性を高めようと、こうしたツールを導入する企業が増加していくと予想できます。

 ではなぜ、この数年でHRテクノロジー市場は急拡大したのでしょうか。