『週刊ダイヤモンド10月6日号』の第1特集は、「新幹線VS飛行機十番勝負」です。最強のライバル、新幹線と飛行機の安全性が揺らぐ事件・事故が頻発しています。そんな事情もあり、これまで所要時間や運賃が中心だった「乗り物選びの基準」が激変。利用者は、災害対応力やセキュリティーの徹底も求めるようになっています。新幹線か、飛行機か。多様化する「乗り物選びの新基準」として10の物差しを提示、十番勝負で決着をつけました。

 永遠のライバルである陸の王者・新幹線と空の王者・飛行機。50年余りの長きにわたり、両者は移動の覇者の座を懸けてしのぎを削ってきた。

 詳しくは後述するが、新幹線と飛行機が激戦を繰り広げてきたからこそ、乗り物やそれに付随するサービスが拡充され、日本の交通手段が独自の発展を遂げてきたことは紛れもない事実だ。

 だが最近、この最強モビリティーの様子がおかしい。陸・空共に、安全神話が崩れつつあるのだ。

 東海道新幹線では2015年に焼身自殺事件、今年は殺傷事件が発生。17年末には、新幹線「のぞみ」で台車トラブルも発覚した。台車製造元である川崎重工業幹部が、「運行を続けていれば大惨事につながっていたかもしれず、おわびのしようもない」と猛省するように、新幹線としては初の重大インシデントに認定された。

 1日に47万人を運ぶ大動脈のセキュリティーや安全性の脆弱さに不信の念を抱く国民は少なくないだろう。

 飛行機には災害が襲った。9月、台風21号による高潮の影響で関西国際空港が水浸しになった。関空連絡橋にタンカーが衝突し、海上空港の関空が孤立した。

 関空は空港民営化の先行事例だ。関空を運営する関西エアポートの初動対応が遅れたことで、8000人もの乗客が閉じ込められた。「これは天災ではなく人災だ」(航空会社幹部)という声が絶えない。

 災害大国ニッポンの交通手段を選ぶ基準として、「災害対応力」や「安全性・セキュリティーの徹底」が利用者から求められる時代になったことは間違いない。

切磋琢磨の競争で
悉く打ち破った世界の常識

 やられたらやり返す──。1964年に東海道新幹線が開業して以降、新幹線と飛行機は熾烈な戦いを繰り広げてきた。

 その主戦場は、500kmを移動する東京〜大阪である。

 戦いの主軸は「時間と運賃」だった。飛行機のドル箱路線で、新幹線は鮮烈なデビューを飾った。開業翌年の65年に「ひかり」で3時間10分だった所要時間が、92年に300系「のぞみ」で2時間30分まで短縮した。驚異的な追い上げに、飛行機陣営が焦ったことは言うまでもない。

 しかし、飛行機は羽田空港発着の便数の増加により、所要時間が45分から現在の65分へ延びてしまった。

 そこで飛行機が仕掛けたのが、新幹線とは異なり、グローバル化を背景にしたサービス拡充や運賃施策だった。

 大量輸送と定時運行で攻める新幹線と、上質なサービスとマイルによる顧客囲い込み戦略で攻める飛行機。両者が切磋琢磨することで、「距離が400kmを超えれば飛行機の勝ち」「所要時間が3時間以内ならば鉄道の勝ち」という世界の常識を悉く破った。

 今後、乗り物選びの基準はどう変わっていくのだろうか。

 新幹線か、飛行機か。これまで、どちらを使うかの決め手になるのが「4時間の壁」だとされてきた。新幹線での移動時間が4時間を超えると、飛行機へ利用客が流れるという鉄則である。

 しかし、実際には4時間の壁はとっくに崩れている。そんな壁は存在しない。

 その意味するところは二つある。一つ目は、時間の壁がさらに短縮した。50年以上も、飛行機と新幹線が激しく競い合った結果、利用者は「3時間台」までしか許容できなくなっている。両者が直接対決する区間で言えば、東京〜岡山の「3時間10分」が限界に近い(空港が市街地から遠い広島は、利用者の好み次第)。

 実際に、本誌を実施した利用者1200人アンケートでも新幹線利用を許容する時間は「2〜3時間以内」と「3〜4時間以内」が拮抗する結果になった。

 もっと重要なのは二つ目で、利用者の乗り物を選ぶ基準が多様化し、そして複雑化していること。時間だけで乗り物を選択することはなくなったのだ。

 ただし、これは利用者が時間に無頓着になったという意味ではない。むしろ、所要時間が1時間であっても、車内・機内で過ごす時間の生産性にこだわるようになった。例えば、「ネット環境が整備された空間で仕事をしたい=Wi-Fiを完備してほしい」人もいれば、「快適に映画を楽しみたい=新幹線にディスプレーを付けてほしい」人もいる。「時間よりもセキュリティーを優先してほしい」人もいるだろう。

 もちろん、全ての利用者を満足させる絶対解などない。JRや航空会社は、こうした要望を先取りして、ハードウエアとソフトウエアの両面で競合と差別化を図る必要に迫られている。

 少なくとも、JALが仕掛けたWi-Fi完備や、運賃体系の多様性は、乗り物選びの前提条件になってゆくだろう。

LCCがゲームチェンジャー
十番勝負で決める”移動の覇者”

『週刊ダイヤモンド』10月6号日号は「新幹線VS飛行機 十番勝負」です。

 個人的には、“地に足のついている”新幹線派です。車両の製造技術、騒音対策技術、土砂崩れを回避する土木技術、定時運行のための信号系統の技術──。あらゆる技術の結集、総合力で走る鉄道産業の構造を取材で知った時、たちまち鉄道の魅力に取り憑かれました。

 そんな新幹線びいきの記者でも、最近のLCC(ローコストキャリア)の躍進には目を見張るものがあります。

 LCCの国内線供給量は、(LCC就航時の)2012年比でなんと200%増!路線網が大膨張しているのです。JAL/ANAでは採算の取れない地方路線を「点と点」で結べるので、地方創生の架け橋としての役割も期待されています。

 国内線にはLCC5社が参入していますが、エアアジア・ジャパンを除いた4社は、JAL/ANAの資本が入っていたり、業務支援を受けていたりと、系列の色がついています。

 そうした意味では、LCCが起こすゲームチェンジは、JAL/ANAが新幹線に仕掛ける「新時代の戦い方」であるとも言えます。

 新幹線と飛行機の戦いは、「50年戦争」を超えた異次元の戦いへ突入しました。戦いが熾烈化すればするほど、利用者の「乗り物選びの基準」はよりシビアになります。

 本特集では、新幹線、JAL/ANA、LCCの3者を10の物差しで徹底比較しました。以下が、十番対決のラインナップです。

《1番》路線網
《2番》セキュリティー
《3番》時間・コスパ
《4番》快適性
《5番》新モデル
《6番》インバウンド
《7番》定刻
《8番》メイドインジャパン
《9番》経営力
《10番》駅・空港

 新幹線か、飛行機か。最強の“移動の覇者”はどちらなのか。結果は、誌上で確かめてみてください。