大王製紙Photo:JIJI

下馬評と異なり、大王製紙のCB発行をめぐる裁判では、北越コーポレーションの賠償請求が棄却された。北越が勝てば、日本の証券界に与える衝撃は大きかったはずだが、今回の泥沼訴訟においては大王のぼろも目立った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

 9月20日、13時15分。東京地方裁判所の民事第8部(商事部)第601号法廷での判決は、時間にして1分もかからずに言い渡された。

 大竹昭彦裁判長は、「原告の請求をいずれも棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」と法廷で淡々と述べた。2015年12月より、断続的に行われてきた“泥沼訴訟”にしては、あまりにあっけない第1ラウンドの幕切れである。

 この訴訟は、15年9月から大王製紙が発行する300億円の新株予約権付社債(転換社債=CB)によって同社の株価が大幅に下落したことで株主利益が損なわれたとして、筆頭株主である北越紀州製紙(現北越コーポレーション)が、大王の佐光正義社長ら取締役13人(個人)に対して約88億円の損害賠償を求めたものだった。

 北越は、主に六つの論点を主張していた。(1)大王が、北越の再三にわたる中止要請や面会要請を聞き入れずにCBの発行を強行したこと、(2)発行価格が株式の時価より大幅に低いことから「有利発行」に該当すること、(3)このCBは株主総会の特別決議を経ておらず、違法な「不公正発行」であること、(4)その結果、大王の株価が26.8%下落し、時価総額も約572億円減少したこと、(5)将来的にCBが株式に転換されれば、大王の発行済み株式が増えることで北越の議決権比率が20%以下となり、持分法適用関連会社から外れること、(6)代表権を持つ阿達敏洋専務が、裁判の尋問調書で「取締役会で決めれば、有利発行であってもCBを発行して構わない」と発言していたことや、財務担当役員でありながら発行価格の調査手法を自ら精査することなく、部下任せだったことなどを「善管注意義務違反である」と問題視した。