膵臓がんの克服早期発見が難しい膵臓がんですが、決して克服できないがんではありません(写真はイメージです) Photo:PIXTA

克服が困難な膵臓がん
ほとんどが発見時ステージ4

「なぜ神は膵臓という臓器を造ったのか?」

 東京大学医学部名誉教授・癌研有明病院名誉院長の武藤徹一郎先生が、知人で東大教授だった膵臓がんの患者さんの手術を担当された時に発した言葉です。

 当時私は医学部を卒業して3年ちょっとの駆け出しの外科医でしたが、病棟担当医としてその膵臓がん患者の受け持ちとなりました。無論、執刀は武藤先生がされましたが、助手をしていた私から見ても相当に難しい手術でした。がんは周囲組織にも浸潤しており、手術によって十分な切除を行うことは極めて厳しい状況でした。ただ、手術に挑まないことはこの患者さんの死を意味します。手術は敢行され、無事終了しました。

 その後、患者さんは一旦快方へ向かったものの、残念ながら間もなくがんが再発。結果、帰らぬ人となりました。残された奥様や他のご家族に対して、患者さんを救えなかった無念とお悔やみの言葉を伝えられた後、武藤先生は部下である私たちに向かって冒頭の言葉を発したのでした。

 そして、つい先日私は、高校時代の同期生を膵臓がんで失いました。2年前に発見された時には既に手術ができる状況ではなかったといいます。抗がん剤治療、重粒子線治療など、彼は果敢に膵臓がんと闘いました。しかし、膵臓がんは無情にも進行しました。

 今年初頭、彼が膵臓がんの闘病中であることを人づてに聞き、30年ぶりで私は彼と再会しました。その際、何か他に有効な治療法はないかと相談を受けました。極めて厳しい状況の中で私にできることは限られていました。がんを克服したい、生き抜きたいという彼の強い気持ちに応えるために、私はできる限りの手を尽くしました。しかし、病状の進行を止めることはできず、とうとう彼は息を引き取ったのでした。

「なぜ、神は膵臓という臓器を造ったのか?」その言葉が改めて脳裏をかすめました。医療技術が進化し、がんと診断されても早期であれば救命できる確率が相当に高まってきた現代医療の技術をもってしても、膵臓がんは救命が極めて難しいがん。膵臓がんに対して医療が無力ということではありませんが、十分に太刀打ちできていないのも事実です。

 膵臓がんは極めて進行が速く、早期発見が難しいがん。ほとんどが発見時にステージ4(多臓器に浸潤・転移を認め手術ができない末期状態)にいたっており、5年生存率は数%、不治の病と形容されても違和感がありません。