世界各地から集まるハーレー乗り創業115周年のパレードに、世界各地から集まるハーレー乗り。熱狂的なハーレー・ファン、同社の幹部、州民たちに、トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争はどんなインパクトを与えているのか

米オートバイ・メーカーの老舗、ハーレーダビッドソン。創業115周年を迎えた同社の本拠地、中西部のウィスコンシン州ミルウォーキーで、同社の幹部、熱狂的なハーレー・ファン、さらに州民たちが直面する現実を見た。トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争は、この地やハーレー・ファンにどんなインパクトを与えているのか。(取材・文・撮影/ジャーナリスト・長野美穂)

生産工程の一部を海外へ移転
ハーレーの決断に集まったファンは?

「お、見て。今年は女性ライダーの数がものすごく増えてる!」

 米国中西部ウィスコンシン州、ミルウォーキー市内の大きな橋にぶら下がるようにして立っていたジャン・アブヤはそう叫んだ。

 彼が指さす方向を見ると、数千台のハーレーダビッドソンのマシンの隊列が、ドルルンという豪快なエンジン音と共に、橋の上を進んでくるのが見えた。

 世界中から集まった「ハーレー乗り」たちが、米国、メキシコ、日本、中国、南米、ヨーロッパ諸国などの様々な旗をなびかせ、ピカピカのマシンにまたがって街中を疾走する。この創業115周年のパレードを見るために、早朝から場所取りをしていたアブヤ自身も、ハーレー乗りだ。1971年に20歳だった彼は、中古のハーレーを10万円で買い、その愛車を改造して手を加えながら、50万マイル(約80万キロ)以上を走った。ついに動かなくなった彼のマシンは今、「修理工場に入院中」だと言う。

 ハーレーの排気音を聞くだけで、どんな改造パイプを使っているかわかると言うアブヤ。現在67歳で、ミルウォーキーの印刷工場勤めの彼の携帯電話の受信音は、「ドゥルルル、ドゥルルン」というハーレーのエンジン音だ。

 彼がそこまで愛する地元企業のハーレーダビッドソンは、今、かつてない窮地に立たされている。米国から欧州に輸出される二輪車への関税を、欧州連合(EU)が6%から25%に引き上げたのだ。ちなみにこの関税引き上げは、トランプ政権が欧州産の鉄鋼に対して25%の関税引き上げを行ったことへの報復だ。

 この貿易戦争の結果、EU市場でハーレー1台当たりの価格が、2200ドル(約25万円)も跳ね上がる計算になった。そこでハーレーは、高い関税を回避するため、EU市場で売る製品を中心に、生産工程の一部を海外に移すと発表した。米国から完成品としての製品をEUに輸出しなければ、関税が上乗せされることはない。