半世紀近い歴史を刻んだ人気店が姿を消す渋谷・桜丘町。一部の店舗は移転営業して、再開発後に備える

隠れ家的なエリア

 1964年の東京五輪の際に拡幅された国道246号線(玉川通り)によって渋谷駅と分断された桜丘町は、歩道橋を渡ってわざわざ来る街だった。それだけに家賃も割安で、隠れ家的な趣もあり、渋谷駅周辺では最後まで再開発の手を免れてきたエリアでもある。

 10月1日に移転した理髪店の3階にあるバー「8・8」は、閉店翌々日にFREE DAYとして、お別れの会を催した。オーナーママの徳本りえさんは博多出身。ママを慕って、以前勤めていた福武書店(現・ベネッセコーポレーション)の社員や、九州などからこの日のために常連客が集まった。キャロル・キングの曲が流れる中、店での思い出話は尽きることがない。海外にいる1人を除いて歴代アルバイトがカウンターに並んだこともこの店がそれだけ愛されていたからだろう。

 駅が近くて、春には窓いっぱいに桜の花が見える。その雰囲気が気に入って、2ヵ月間、毎日のように電話し続け、熱意を認められて契約にこぎつけた。これが14年前のこと。畳敷きの居室をリノベして店を開いた。当時から再開発の話は進んでおり、定期借家契約の更新を繰り返した。結局、当初の予定より5年ほど遅れてこの日を迎えた。