この意味で、インフレ目標は、中央銀行が失業率を下げたいために金融緩和をし過ぎないような歯止めともいえる。逆に言えば、インフレ目標までは金融緩和が容認されるということだ。

 このような基本的なことを認識しないで、日銀総裁をやっていたから、その成果が散々だったのだ。

 雇用確保の観点から、白川総裁時代を評価すると、失業率は、就任時の2008年4月は3.9%だったのが、退任時の2013年3月は4.1%に上がっている。とても及第点はつけられない。

 リーマンショックや東日本大震災があったのは不運だったが、その対応でも落第だ。

円高やデフレが悪いと
思っていなかったのでは

 リーマンショック後の超円高を招いたところに、それが端的に表れている。

 当時、各国の中央銀行は失業率の上昇を恐れて、大幅な金融緩和を行ったが、日銀はしばらくはそれをやらなかった。その結果、円が各国通貨に比べて相対的に少なくなったので、その相対希少性から猛烈な円高になった。

 これで苦しんだ企業は多かった。

 しかし、その「無策」を反省するでもなく、「(インフレ格差を差し引いて修正した)実質為替レートで見たら、大した円高ではないので、それを言うとたたかれるから放置した」という趣旨の記述が著作中にある。

 この記述は、逆に言えば、名目的な円高は大したことないのになぜ大騒ぎするのか、という彼の本心を告白しているようなものだ。

 これには驚いた。変化の実質だけを見て、デフレで実質所得が高くなるからいいだろうという、典型的な「デフレ思考」である。その当時、円高に苦しんだ人は、この白川氏の本音を聞いてどう思うだろうか。

 デフレも円高も、円が、それぞれモノや他国の通貨量に対して相対的な過少状況から引き起こされる現象である。相対的に過少なので、通貨の価値が高くなり、その裏腹にモノの価値が下がりデフレになり、円の価値が高くなって円高になるというわけだ。

 それが怖いのは雇用が失われるからだが、この人には金融政策によって雇用を確保できるという考えがなく、またデフレや円高が悪いものと思っていなかったのだろう。

人口減少は
デフレの原因ではない

 このほかにも、あきれたことはある。人口減少がデフレに影響しているという「デフレ人口原因説」を、著作で長々と書いていたことだ。

 この論は、5年ほど前には一世を風靡したが、今でも人口減少は続いている一方で、デフレは脱却しつつある。だからもう否定されているものだ。