橘玲の世界投資見聞録 2018年11月8日

映画『否定と肯定』でわかった
ホロコースト否定論者と戦うことの難しさ
[橘玲の世界投資見聞録]

敗訴によってアーヴィングの声望は地に堕ち社会的に葬られた

 2000年4月11日、ホロコースト否定論を徹底的に検証したこの裁判の判決で、裁判官は「証拠に関する客観的検証から導きだされる結果を大幅に偽って伝えている」としてアーヴィングの主張をことごとく退け、リップシュタットの全面的な勝利を宣言した。この判決をイギリスの新聞は、「アーヴィング、嘘つきの人種差別主義者として歴史に名を残す」(ガーディアン)、「歴史家としてのデイヴィッド・アーヴィングの評判が打ち砕かれる」(ロンドン・タイムズ)と報じ、アーヴィングの声望は地に堕ち、社会的に葬られることになった。これ以降、西欧社会では「知識人」を自称する者がガス室を疑うことはできなくなった。

 この判決でアーヴィングは、訴訟費用200万ポンド(約3億円)を支払うように命じられてもいる。アーヴィングは破産し、弁護側は売却できそうな歴史資料のコレクションまで差し押さえたが、日本と同じくイギリスでも債権回収は困難なようで、破産関係の専門家と相談した結果、それ以上の追及に時間と労力をつぎ込むのはやめたとういう。

 こうして裁判は勝利で終わったものの、リップシュタットも認めるように、だからといってホロコースト否定論者がいなくなったわけではない。そもそも彼らは、「ホロコーストはなかった」という“夢”を見ていたいだけだから、事実を突きつけることだけでは限界があるのだ。――彼らがなぜこのような主張をするのかは、あらためて考えてみることにしたい。

 アーヴィグは2005年に、1989年に行なった演説がホロコースト否認を禁じる法に違反したとしてオーストリアで逮捕され、(リップシュタットを訴える前の)1991年から考えを変えたと主張し、「ナチスはたしかに数百万のユダヤ人を殺害した」と抗弁したが認められず、2006年に3年間の服役という判決を受けた。

 けっきょくアーヴィグにとって、歴史とは、自分が有名になるためならどのように改変してもかまわないものだったようだ。

アウシュヴィッツ強制収容所    (Photo:ⒸAlt Invest Com)

 

 

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書) 。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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