人工知能を自社で活用したいと考えている企業は多いだろうが、上層部がその知識に乏しければ、進むべき道を見誤る。世界を代表する通信機器会社ノキア会長のリスト・シラスマは、リーダーみずから学校で学び直すことから始め、同社の全社員に機械学習の基礎を習得する仕組みをつくりあげた。本記事では、そのための5つのステップが示される。


 人工知能(AI)はほぼすべてのものに破壊的変化を及ぼす、という期待と可能性に対し、私は長いこと懐疑的であり、楽観的でもあった。しかし昨年、機械学習の急速な進歩にショックを受け、ノキアと自分がともに理解不足だったことに懸念を抱いた。そこで、私自身が機械学習についてどう学び、会社の学習をどう支援すべきかを考えた。

 幸いにも、ノキア会長という立場のおかげで、世界を代表する何人もの人工知能の研究者たちに時間を割いてもらうことができた。ただし、彼らの話は断片的にしか理解できなかった。また、一部の対談相手は、私に対して「機械学習は実際にどう機能するのか」を芯から理解させることよりも、このテーマに関するみずからの高度な理解を披露することに夢中になっているように思えて、苛立ちを感じた。

 私はしばらくの間、不平をこぼしていた。しかしやがて、長い間CEOと会長を務めてきたがゆえに、自分の立場に囚われるというワナに陥っていたことに気づいた。他人に説明してもらうことに慣れてしまっていたのだ。見るからに複雑そうな技術の基本を自分で解明しようとする代わりに、私はその重荷を他の誰かに背負ってもらうことに慣れきっていた。

 機械学習についてみずから学び、同じ問題を抱える人たちに、その成果を説明してはどうだろうか。そうすれば彼らのためになると同時に、当社における機械学習の注目度も高まるかもしれない。そう考えたのである。

学校でふたたび学ぶ

 私はインターネットで手早く検索し、オンライン学習プラットフォームのコーセラでアンドリュー・エンのコースを見つけた。アンドリューは素晴らしい講師で、人々に学んでほしいと心から願っていた。約20年ぶりにプログラミングに触れたことも、非常に楽しかった。

 機械学習の最初のコースを修了した後、専門的なフォローアップ講座2つを続けて受講した。深層学習と、主に視覚イメージの分析に適用される畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の講座である。テーマに関する知識が増えていくにつれ、アンドリューのコースに含まれていなかった、機械学習のアーキテクチャとアルゴリズムに関する研究論文と記事も読むようになった。

 私は3ヵ月間で6つのコースを修了し、各コースで1つずつプロジェクトに取り組んで実践的な理解を深め、簡単なアルゴリズムと、より複雑な多くのアーキテクチャについて学習した。

 その後、何よりも困難な部分に手をつけた。機械学習の本質を最もシンプルに、かつレベルを下げずに、どうやって人に説明するか、という問題だ。そこで、自分ならこんな内容のものが見たいと思うような、プレゼンテーションを作成した。

 このプレゼンはYouTubeにアップされ、これまでに約4万5000人が視聴した。また、各方面にもプレゼン動画を提供した。その一部はフィンランドの全閣僚、欧州連合の大勢の委員、国連大使のグループ、科学に興味を持ってもらいたい10代の女子学生200名などである。多くの企業では、私の機械学習入門のプレゼンを視聴するよう管理職に義務づけている。

 ノキアの数千人の社員も、私のプレゼンを見て刺激を受けてくれた。研究開発部門のメンバーの多くは、私のもとに現れて打ち明けた。会長が機械学習システムをコーディングしているのに、自分たちはまだ始めてさえいないことを恥ずかしく思う、と。しかしいまでは、彼らは空いた時間を機械学習の研究に充て、ノキア初のプロジェクトに取り組んでいると言った。うれしい話だった。

 しかし、これは最初の一歩にすぎない。