橘玲の世界投資見聞録 2018年11月16日

ヨーロッパだけでなくアメリカにも賛同者がいる
ホロコースト否定論の根拠とは?
[橘玲の世界投資見聞録]

日本でも一世を風靡したポストモダンが拍車をかけた

 リップシュタットは、ホロコースト否認の背景に「1960年代後半に出現した風潮」があるという。「その頃、さまざまな学者が、原典(テキスト)は固定した意味を持たない、と主張しはじめた。つまり、著者の意図ではなく、読む人の解釈が意味を決めるという」

 ここからわかるようにリップシュタットは、日本でも文系アカデミズムで一世を風靡したポストモダンについて述べている。「すべての概念システムはほかと同じ傾向を有する」なら、「ホロコーストは起きた」という概念と同様に、「ホロコーストはなかった」という概念にも耳を傾けるべきなにものかがあることになる。もちろん、だからといってポストモダンの方法論をすべてを否定すべきだとはならないが、「歴史修正主義」とは歴史の「脱構築」でもある。こうしてパンドラの箱が開けられたのではないだろか。

 「非構造主義(註:ポストモダン哲学)は、経験は相対的なものであり、確固たる不同なものは何もないと論じるがゆえに、歴史事象の意味を疑問視することに対し、これを寛大に見る雰囲気をつくりだし、この懐疑的アプローチに“枠”があると主張するのは、難しくなった」というリップシュタットの告発は、日本の文系アカデミズムにも向けられている。

 アメリカでは、文化相対主義のもと、学問分野における白人の優越を批判し、「ヨーロッパ文明の形成に果たしたアフリカの役割があまりに無視されてきた」と主張する一派がいる。これはもちろんそのとおりなのだが、あるアフロ・アメリカ学教授は「黒人は太陽の民、白人は氷の民」とする説を唱え、「暖かく共同的で、希望にみちあふれた事柄はすべて前者に由来し、抑圧的で冷たく硬直したものは後者からくる」とする。こうしたアメリカの大学(知的コミュニティ)の雰囲気をリップシュタットは、「学者たちは、この種の風変わりな見方を、かつては一笑に付したであろうが、今では何だか信頼性のある説として扱わざるを得ない気持ちに襲われている」と慨嘆している。

 最後にもう一点。リップシュタットは「ホロコースト否認=反ユダヤ主義」としているが、これですべてが説明できるわけではない。なぜなら、代表的な「ホロコースト否認論者」としてノーム・チョムスキーを挙げているものの、生成文法で知られるこの著名な言語学者はユダヤ人だからだ。「極左」であるチョムスキーがフォーリソンなどホロコースト否定論者の「表現の自由」を擁護する背景にはパレスチナ問題があり、リップシュタットは(おそらく)意図的にこのことに言及していない。だがこのさらにやっかいな問題については、別の機会にあらためて論じてみたい。 

アウシュヴィッツ強制収容所。銃殺刑が執行された壁に花が置かれていた    (Photo:ⒸAlt Invest Com)

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は、『朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論』(朝日新書) 。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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