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5月11日 17時0分
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日本株式市場展望(2012年5月) - 広木隆「ストラテジーレポート」

身も蓋もない話

ストラテジー・レポートの読者におかれては筆者の持論はよくご存知だろう。「ストラテジストの予想は当たらない」というものである。ストラテジストの予想は当たらない、と言ったけれど、相場を当てられないのはストラテジストでもファンドマネージャーでも同じで、誰だって当てられない。ウォーレン・バフェットでも相場を当てることはできないだろう。でも、彼は株式投資で大金持ちになったではないかって?そこがポイントである。短期的な相場を当てることと株式投資で成功して財を成すことは違うということなのである。

日経ヴェリタスに先日掲載された筆者の相場見通しには「日経平均7月末に1万1,000円」というタイトルが大々的につけられていた。それを見た読者から、「こんなに下がってしまって本当に1万1,000円までいくのですか?」というご質問や「いくわけないだろう、バカ!」といった怒りの声が少なからず寄せられているが、ウォーレン・バフェットなら間違いなく、そんな質問はしないだろう。彼にとっては7月末の株価がどうなるか、などはどうでもよいことだからだ。筆者にとっても7月末に1万1,000円になるかどうかはどうでもいい。日経の記者の方から「向こう3カ月程度の見通しを」と尋ねられたので、業績面からは1万1,000円が妥当であると答えたのである。7月末かどうかは分からないけれど、そのうちに1万1,000円程度に日経平均は上昇すると思う。

「ストーリーとしての競争戦略」がビジネス書としては異例の大ベストセラーになっている楠木建・一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 ‐ それにしてもやたら長い肩書きである。「こくさいきぎょうせんりゃくけんきゅうかきょうじゅ」って早口言葉になりそうだ ‐ が拙著「ストラテジストにさよならを」の書評を先日「週刊ダイヤモンド」に書いて下さった。

著者は証券会社のストラテジストであるにもかかわらず、市場の見通しも株価の予想も基本的には外れると思った方がよい、と言い切る。ストラテジストはみんな能力的には五十歩百歩、本当に「何が儲かるか」を当てられるならば人に教えたりしないで自分で相場を張った方が良いに決まっている、というのが著者の主張だ。身も蓋もない話である。しかし、物事の本質は往々にして身も蓋もない話の裏側にある。
(週刊ダイヤモンド4/7号「書林探索」)

さすがは楠木先生、「物事の本質は往々にして身も蓋もない話の裏側にある」とは、誠にしびれるお言葉だ。その通り。本当に相場を当てられるなら人に教えたりしないで自分でヘッジファンドでも運用して儲けたほうがいい。

では、筆者が「株式市場展望レポート」で掲げている「日経平均1万1,000円」などの目標株価とはいったい何か?それは「理論値」である。「日経平均の下値は9,000円」。これは理論値を言っている。現に本日の日経平均の終値はとうに9,000円を割り込んでいる。通常の「レンジ予想」というものならば、もっと幅を広くとって8,800円.9,500円などと表示したほうが無難であろう。しかし、前から述べているとおり、そんなことはなんの役にも立たない。

「日経平均の下値は9,000円」だと言う。それは端から外れている。9,000円は「理屈」で実際の相場は「理屈」通りにいかないからだ。誠に身も蓋もない話である。しかし、楠木先生いわく「物事の本質は往々にして身も蓋もない話の裏側にある」。「理屈」通りに動かない相場の「振れ幅」を当てようなどというのは絵空事であって、そこまで考慮して8,800円.9,500円などと言っても仕様がない。「理屈」じゃないものを当てるとすれば、何が必要か?霊感とか予知能力とか、そんなものを求められてもストラテジストは祈祷師やエスパーではあるまいし、到底、無理である。その代わりにストラテジストは理論値を示すことができる。相場にオーバーシュート(行き過ぎ)はつきものだ。しかし、いつかはあるべきところに戻り、然るべき値に収まるだろう。だったら、理屈を超えたオーバーシュートを追いかけるよりも、いつか収束する、その然るべき値を示す、それがストラテジストの仕事であると思うのだ。

日経平均の下値目処

日経平均の下値は9,000円だと思う根拠はPBRである。昨日の終値でPBRは1倍を若干下回っている。もうこれ以上の下値は理論的には考えられない。読者の中にはPBR の1倍が下値にならないと思われるかたもおいでだろう。過去の下げ相場ではPBR は簡単に1倍を割り込み、そうした状態が長く続いた経験からすればもっともなことだ。言うまでもないが、日本株のPBR は1倍割れが珍しくない。それは裏を返せば日本企業の利益率が低いからである。

株価純資産倍率PBRは株価(P)÷1株当たり純資産(B)である。これは自己資本利益率(ROE)と株価収益率(PER)の掛け算で表すことができる。



見てとれるようにPBRはPERが一定の時、ROEに比例する。自己資本利益率が高いほどPBRは高くなる。ここで(2)式右辺のE/Bの代わりにE/Pを入れたらどうなるか?E/PはPER(P/E)の逆数だからPBR = 1である。PER(P/E)の逆数、E/Pは株式益利回りといい、現在の株価Pで投資した場合、企業はどれだけの利益Eを稼いでくれるかを表すもので、投資家の期待リターンの代理変数とされる。つまり、既に払い込まれたエクイティ(自己資本)に対してどれだけの利益を稼げるのかという利回り(ROE)が、市場の期待リターン(株式益利回りE/P)を上回る度合い、それがPBRの高さを決定する。

ROE > E/P ならばPBRは1倍を超え、反対にROE < E/PならばPBRは1倍を下回る。企業収益が低迷し、減益予想の場合、実際には減益であっても利益が出ているのだから資本が棄損することはないのであって、PBRが1倍を割れるというのは感覚的に理解しにくいが、ROEが市場の要求利回りを満たさないから、と考えれば納得的であろう。

特に株式相場が低迷を極めた昨年の秋ごろは、現在発表されている2012年3月期業績に対する懸念が高まった時期である。終了した前期12年3月期は年度初から震災の影響を色濃く引きずって始まり、電力不足、歴史的な円高に加えタイの洪水の影響も重なって上場企業全体で約2割の減益となる模様だ。この企業業績の低迷を織り込んでPBRが1倍を割り込んだのだ。

今期業績見通し

では今期の業績見通しはどうなのか?確かに、決算発表が始まった頃は市場予想に届かない業績見通しを発表する企業が多く、そうした企業の株価が激しく売られる場面が目立った。それらは表1に挙げたような市場を代表する主力銘柄だったために、いかにも今期の業績が市場予想から大幅に下振れしているような印象を持ってしまいがちだが、実態はそうではない。東証1部全体の予想利益の合計額は、当初から市場予想を5%程度下回る水準だったが、直近ではその差がさらに縮小し3%程度下振れているに過ぎなくなっている。



なぜかというと表2に示したように、自動車、商社、通信など利益の絶対額そのものが大きな企業が発表した予想は市場コンセンサスからそれほど乖離していないからだ。特に9日に発表されたトヨタの今期予想利益は圧巻だった。トヨタはいつも期初には控えめな利益見通しを発表することで有名だった。だから市場コンセンサスとして今期営業利益で5年ぶりとなる1兆円の大台回復が予想されながらも、そこまでの数字は出してこないだろうとみられていた。どこまで1兆円に近い数字を出すか ― それが市場の焦点だった。ところが1兆円という数字を出してきたものだから、これはポジティブ・サプライズになった。この軟調な相場でトヨタは2日続伸である。



表3は東証1部でデータが取得できる企業の時価総額と市場が予想する純利益である。時価総額を純利益で割ればPERを求めることができる。東証1部の時価総額は270兆円で、うち金融が30兆円程度だから、216兆円の時価総額は東証1部除く金融の9割をカバーするユニバースである。ほぼTOPIXに等しいと考えてよい。これによれば、決算発表がすべて終了し会社側予想が出揃ったときに、予想PERの基となる純利益が現在の市場コンセンサス通りとなった場合、PERは12.5倍に低下する。それは上出来だが、仮に5%下振れして着地したとしても、13倍台。米国株のバリュエーションと遜色がない。これをメインシナリオに数字をはじいてみよう。



昨日のTOPIXは765.42ポイント。PER13.1倍で割るとEPS(1株当たり利益)は約58ポイントである。昨日のPBR 0.96倍を基にすればTOPIXのBPS(1株当たり純資産)は797.31ポイントである。市場が予想する今期業績からはROEは7.3%に改善する(58 ÷797.31 = 7.3%)。このROE 7.3%をPER 15倍(現在の水準)で評価すればPBRは1.1まで上昇していい。これはざっくり言えば、東証1部の上場企業は現在の純資産を1割程度増加させることができる、と市場が評価することである ― 決して多くを望んでいるわけではないだろう。減益決算が見込まれているときならば、PBRが1倍を割り込むケースもあり得るだろう。しかし、仮にも大幅業績改善が市場で予想され、企業側の業績計画もほぼそれと等しいものが発表されている時期に、PBRが1倍を下回ることは理論的におかしい。くどいようだが、理論通りいかないのが相場であるから、PBR1倍を割り込むことはあり得るが、それが常態化することはないと思うのが自然である。

決算発表一巡後、今期の業績を織り込めば相場水準の訂正が起きるだろう。TOPIXのPBR1.1倍はNT倍率を使って日経平均に直せば約10,350〜10,500円に相当する。

日経平均の高値目標は1万1,000円と言ったじゃないかって?あと500円は理屈ではない。もう一度上昇相場に入れば、500円くらい、理論値を超えてオーバーシュートするだろう。筆者の勘である。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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