中東秩序「100年ぶり変動」の可能性、記者殺害事件の深層議会で演説するトルコのエルドアン大統領 Photo:Abaca/AFLO

 10月初旬、世界を駆け巡った驚くべきニュースの余震が続いている。

 サウジアラビアの「反体制派」ジャーナリストが、イスタンブールの同国総領事館内でサウジ王家の指示で派遣された十数人の手により絞殺され、犯行グループはその直後、帰国。遺体は見つかっていない。解体され化学薬品で溶かされ下水に流されたともいわれる。

 まるでB級スパイ映画のような事件だ。

 事件の情報源のトルコ政府は今も執拗にサウド王家批判を続ける。米国(CIA、中央情報局)は、サウジのムハンマド皇太子の「指示」とする報告書を出したといわれるが、サウジ側は「全面否定」し、「トカゲの尻尾切り」を決め込んだ。皇太子の政治的権威は維持され、カタールを除く湾岸アラブ諸国やヨルダン、エジプトはサウジを擁護する。王室内には皇太子に反対する声もあるようだが、顕在化はしていない。

 しかし、なぜトルコは他国の総領事館内の音声内容を詳細に知っているのか。なぜサウジアラビアは危険を承知でカショギ氏を殺害したのか。なぜトランプ政権はこの事件で多くを語らないのか。謎は深まるばかりだ。

 だが、中東近現代史という「補助線」を引くと、中東の秩序が一気に不安定化しかねない対立の構図が見えてくる。